ホテル・旅館の自社予約比率の考え方(OTAの予約と公式サイトの予約の役割分担)
自社予約比率を上げたい宿が最初にやることは、先月の予約を入口ごとに数えて、いまの比率を知ることです。そのうえでOTAは残したまま、公式サイトと公式LINEを整え、OTAで出会った方が二回目から直接予約できるようにします。
自社予約比率は、上げる数字ではなく役割を分けて育てるもの
自社予約比率とは、宿に入る予約全体のうち、公式サイトや電話など、OTA(楽天トラベルやじゃらんなどの予約サイト)を通さない予約がどれくらいの割合かを示す数字です。直販比率とも呼びます。
この比率を上げたいという相談を、よくいただきます。手数料が重いから、直販を増やしたい。私たちも宿を運営しているので、同じ課題に向き合ってきました。
自社予約比率は、OTAを削って無理に上げる数字ではありません。OTAは新規のお客様と出会う入口です。公式サイトと公式LINEは、宿を調べて選んだ方や、一度泊まった方を迎える受け皿です。入口と受け皿は、役割が違うだけで、どちらも宿を支えます。
比率を上げる正しい手順は、OTAを閉じることとは逆です。公式サイトと公式LINEを先に整え、OTAで出会った方が二回目から直接予約したくなる状態を作ります。比率は、その結果としてあとからついてきます。
自社予約比率とは何か。先月の予約を入口ごとに分けて出す
いまの比率は、先月に泊まった予約を入口ごとに分けて数えると出せます。
入口は、ふだん大きく四つに分かれます。OTAからの予約、公式サイトからの予約、電話からの予約、公式LINEやメールからの予約です。このうち公式サイト・電話・公式LINEなど、OTAを通さない予約の件数を、全体の件数で割ります。この割合が、いまの自社予約比率です。
件数で出したあと、予約金額でも同じように出すと、もう一段はっきり見えます。OTAからの予約は手数料が引かれるので、同じ件数でも宿に残るお金は直販より少なくなります。件数の比率と、お金の比率は別の数字です。お金の比率は、手数料を引いたあと宿に残るお金のうち、直販が占める割合です。
たとえば、先月の予約が全部で100件あったとします。内訳がOTAから60件、公式サイトから25件、電話から10件、公式LINEから5件だったなら、OTAを通さない直販は40件です。自社予約比率は、件数で40%になります。ここから金額でも見ます。OTAの60件には手数料が引かれるので、同じ単価でも、宿の手元に残るお金で見ると、直販の取り分は件数の40%より大きくなります。件数と金額の二つで並べると、OTAに払っている手数料の重さが数字で見えてきます。
私たちが宿の相談を受けるときは、まずこの仕分けを一緒にやります。比率を出してみると、感覚で思っていた数字とずれていることが、ほとんどです。先月はOTAが八割だと思っていた宿が、数えてみると六割だった。そういうことが実際に起こります。感覚ではなく、先月の予約台帳で数える。ここが出発点です。
仕分けの細かいやり方と、直販を増やす手順そのものは、「OTA依存から抜け出すには|手数料の計算例と直販を増やす手順」に書いています。
なぜ、比率100%を目指さないのか。OTAには二種類のお客様がいる
自社予約比率は、高ければ高いほどよい、という数字ではありません。比率を100%にするには、OTAからの予約をゼロにする必要があります。いちばん手っ取り早いのは、OTAを閉じることです。そこで何が起きるかを、先に考える必要があります。
OTAを見て予約するお客様は、大きく二種類に分かれます。一つは、値段だけで選ぶ方です。この方は宿の細かい情報まで読み込まず、安くて条件が合えばそのまま予約します。もう一つは、宿が気になった方です。この方はOTAで見つけたあと宿の名前で検索し、公式サイトを見てから予約先を決めることが多いです。
比率を上げたい宿ほど、前者の「値段だけで選ぶお客様」を軽く見がちです。ですが、この方たちがいなければ、そもそも予約の総数が足りません。値段で選ぶ方も、宿の稼働を支えてくださっている大切なお客様です。この方たちと出会う場所が、OTAです。
私たちが運営する松川館でも、一度このことを実地で確かめました。OTAで正面から戦おうと考え、料金をかなり安く設定した時期があります。それでも、予約は思ったように増えませんでした。松川館は、誰もが知る観光地の中にある宿ではありません。OTAでまず場所から選ぶお客様にとって、周辺に強い観光の目的がない宿は、いくら安くても総合評価で選ばれにくいのです。箱根のような激戦地なら、安さが決め手になることもあります。立地がそうではない宿では、値段を下げても、少し高くて観光地に近い宿のほうが選ばれました。安くした分だけ、宿に残るお金が減りました。
この経験から、私たちははっきり分けて考えるようになりました。立地が強い観光地にある宿なら、OTAで値段と条件を磨いて正面から戦う価値があります。立地がそこまで強くない宿は、OTAを入口として使いながら、二回目以降の予約を公式サイトと公式LINEで取りにいく。比率100%を目指すのではなく、役割を分けるということです。

公式サイトから予約する方は、宿を調べて選んでくださった方
公式サイトから予約する方の多くは、宿の名前で検索して、写真や料理や宿の人の思いまで読んだうえで予約しています。OTAの一覧で値段を見比べて決めた方とは、予約に至る道のりが違います。この宿に泊まりたいと思って予約してくださった方です。
この違いは、予約が入ったあとの現場にあらわれます。宿を調べて選んでくださった方は、宿のことをある程度分かったうえで来られるので、到着してからのやり取りが穏やかです。スタッフもお客様も、お互いに接しやすくなります。
お金の面でも、残るものが違います。公式サイトからの予約には、OTAの手数料がかかりません(自社の予約システムの利用料などはかかります)。手数料は契約によって変わり、クーポンや広告枠を積み増すと30%を超えることもあります。さらに、公式サイトで予約した方のメールアドレスや電話番号が、宿の手元に残ります。OTA経由の予約でも宿泊に必要な連絡先は届きますが、その連絡先を次のご案内に使うことは、OTAの規約で制限されています。連絡先が残れば、次のご案内を広告費をかけずに届けられます。
自社予約比率が上がると、手数料が減るだけにとどまりません。宿を選んで来てくださる方の割合が増え、現場が穏やかになり、次につながる連絡先が宿に貯まっていきます。この三つが同時に進みます。
私たちの宿での役割分担。松川館と北海道の宿でやっていること
松川館では、OTAは新規のお客様と出会う入口として残しています。そのうえで、来てくださった方には公式LINEに登録していただき、名簿を作っています。登録のきっかけは、チェックインのときです。宿泊台帳を公式LINEの画面で書いていただく形にしました。登録の前に、お知らせを送ることを画面でお伝えし、そのうえで書いていただいた方が友達登録されます。登録しない方は、紙の宿泊台帳で書けます。フロントで一言お願いするだけなので、宿の手間もほとんど増えません。
こうして積み上げた松川館の公式LINEの友達は、いまおよそ一万人です。新しいプランができたときに、そのお知らせを公式LINEで一斉に送ると、一回でおおよそ100万円から200万円分の予約が新しく入ります。これは、友達が一万人まで増えたからこその金額です。一万人になるまでには、何年もかけて一人ずつ登録していただきました。はじめから大きな数字が出たわけではありません。OTAを一件も削らずに、二回目以降の予約を直接いただく仕組みが、ここにあります。
もう一つ、北海道にある全3室の宿の例です。この宿では、公式サイト・検索対策・Googleマップ・Instagram・公式LINE・広告・採用ページを、私たちが一社で担当しています。まず公式サイトを作り直しました。予約ボタンの行き先を自社の予約システムにそろえ、料理の献立や客室からの眺め、宿を営む人の思いまで、OTAより厚い情報を載せました。宿の名前で検索して来た方や、SNSで宿を知った方が、迷わずその場で予約できる状態に整えたということです。
| 公式サイト直販の売上 | 4.7倍 | 2025年7月 61万円 → 2026年7月 289万円(2026年8月28日集計) |
|---|---|---|
| 1か月の予約数 | 8→35件 | 同じ宿の直販の予約数(2025年7月と2026年7月の、それぞれ1か月) |
| 公式LINEの友達 | 約1万人 | 松川館・告知の配信一回で約100〜200万円分の予約 |
北海道の宿の直販の売上が一年で4.7倍になったのは、公式サイトを含む七つの施策をあわせて回した結果です。OTAで出会い、検索やSNSで宿を知り、公式サイトで予約し、公式LINEで二回目につなぐ流れです。
比率を上げるのは、OTAを削ることではなく受け皿を作ること
比率を上げるために作る受け皿は、主に二つです。
一つ目は、予約がそのまま入る公式サイトです。宿の名前で検索して来た方が、料理や客室や宿の人の思いまで読んで、その場で予約できる状態にします。予約ボタンの行き先が自社の予約システムになっていること、載せる情報がOTAより厚いこと。この二つがそろって、はじめて公式サイトは受け皿になります。載せる情報を厚くする具体は、公式サイトの作り方としてまとめています。
二つ目は、来てくださった方に登録していただく公式LINEの名簿です。チェックインのときに登録をお願いし、連絡先を宿に残します。名簿があれば、二回目の予約を広告費をかけずにいただけます。やり方は「OTAの手数料を下げ、宿の自社予約比率を上げるLINEの活用方法」にまとめています。
この二つを整えたうえで、OTAはそのまま回し続けます。OTAで出会った方の一部が、二回目から公式サイトや公式LINEで予約してくださる。これが積み重なって、比率はゆっくり上がっていきます。
ここまでを宿の中だけで続けるのが難しい場合は、外に任せる方法もあります。任せる範囲と宿に残す仕事は、「旅館・ホテルの集客代行に任せる仕事と、宿に残す仕事」にまとめています。
一件が直販に変わると、宿にいくら残るか
1件の予約の宿泊料金が合計2万円、OTAの手数料が15%の宿があるとします。この宿がOTAで一件予約を受けると、手数料は2万円の15%で3,000円です。同じ予約が公式サイトからの直販に変われば、この3,000円はOTAに払わずに済みます。自社の予約システムの利用料や決済手数料は直販でもかかるので、宿に残るのはそれを差し引いた額です。
月に30件の予約がOTAから直販に変わったとすると、3,000円かける30件で、OTAに払う手数料が月に9万円減ります。年にすると、108万円です。1件の予約の宿泊料金がもっと高い宿や、クーポンと広告枠を積んで手数料が実質30%になっている宿なら、減る手数料はさらに大きくなります。
残った手数料は、料理やサービス、働く人の待遇、公式サイトと公式LINEの手入れに回せます。自社予約が増えるほど、宿が自分の判断で使えるお金が増えていきます。
手数料が一件あたりいくら消えているかを、自分の宿の客単価と料率で正確に出す方法は、「OTAの手数料は1予約あたりいくら消えているか|粗利から逆算する計算」に書いています。まず自分の宿の一件あたりの金額を知ると、比率を育てる意味が具体的になります。

よくある二つの誤り。急にOTAをやめる、値下げで比率を作る
自社予約比率を上げようとして、かえって宿を苦しくする打ち手が二つあります。
この二つに共通しているのは、比率という数字だけを見て、宿の予約総数やお客様との関係を見ていないことです。比率は宿を健やかにするための道具なので、比率のために予約総数を減らしたり、値段で選ばれる関係に戻ったりすると、順番があべこべになります。
自社予約比率は一気には動かない。公式LINEの名簿は一人ずつ積み上がる
自社予約比率は、手を打ったその月にぐんと上がる数字ではありません。
公式サイトを作り直しても、宿の名前で検索して来る方が増えるまでには時間がかかります。公式LINEの名簿も、来てくださった方を一人ずつ積み上げていくものなので、一気に一万人にはなりません。松川館の公式LINEも、何年もかけて今の人数になりました。
それでも、受け皿を先に作る順番は変わりません。OTAで出会った方が二回目から直接予約したくなる状態を、地道に整え続けます。
北海道の宿で直販の売上が4.7倍になったのも、公式サイトを含む七つの施策を一年かけて回し続けた結果です。まずは自分の宿の先月の予約を入口ごとに数え、公式サイトと公式LINEのどこが足りないかを一つずつ埋めていきます。
よくある質問
自社予約比率は、何パーセントを目指せばいいですか。
決まった正解の数字はありません。OTAをやめる必要もありません。OTAで新規のお客様と出会い、二回目からは公式サイトや公式LINEで迎える形にして、直販の割合を少しずつ上げていくのが現実的です。まずは先月の予約を入口ごとに分けて、いまの比率を知ることから始めます。
OTAをやめれば、自社予約比率は上がりますか。
計算の上では上がります。ですが新規のお客様と出会う入口が大きく減るので、予約の総数が減ります。私たちはOTAを残したまま、公式サイトと公式LINEという受け皿を作って、直販の割合を上げています。
公式サイトからの予約は、OTAからの予約と何が違いますか。
公式サイトからの予約には、OTAの手数料がかかりません(自社の予約システムの利用料などはかかります)。さらに、予約した方のメールアドレスや電話番号が宿の手元に残ります。連絡先が残ると、次のご案内を広告費をかけずに届けられます。公式サイトから予約する方は、宿を調べて選んでくださった方が多いです。
自社予約比率を上げるには、何から手をつければいいですか。
予約がそのまま入る公式サイトと、来てくださった方に登録していただく公式LINEの名簿づくりから始めます。OTAを削るのではなく、受け皿を先に作る順番です。具体的な手順は、関連記事にまとめています。