旅館・ホテルの採用ページに書く、求人票に書けない5つのこと(人が集まらない宿が、募集の前に決めること)

「人が採れない。募集をかけても応募が来ない」という悩みは、宿泊業ではめずらしくありません。帝国データバンクの調査では、2025年10月に旅館・ホテルの59.0%の企業が非正社員の人手不足を感じていました。この割合は、調査した51業種の中でいちばん高い数字です。2026年4月の調査では、38.5%まで下がっています。この記事では、採用ページに書くことと募集の前に決めることを順番に書きます。題名の「求人票に書けない」とは、求人サイトの決まった項目と字数では書ききれない、という意味です。採用を含む、宿の集客の9つの施策の全体と立ち上げる順番は、「旅館・ホテルの集客方法9つと、立ち上げる順番|長野と北海道の宿でやっている全手順」で読めます。

旅館・ホテルの採用ページに書く、求人票に書けない5つのこと(人が集まらない宿が、募集の前に決めること)
FIELD — RYOKAN / JAPAN  ·  松川館
この記事の要点
1
募集を出す前に、仕事の量から必要な人数を決め直します。
2
採用ページには、1日の流れ・大切にしている基準・向いている人と向いていない人・待遇の考え方・選考の流れの5つを書きます。
3
決めた人数で回るかは、急な欠勤などの例外の日を机の上で起こして試してから募集します。

募集の前に、全9室を何人で回すかを決める

人が足りないときは募集を出す前に、宿にある仕事の量から必要な人数を決め直します。

仕事の量を見直さずに募集を出すと、何人をどの時間帯に採ればよいのかを求人票に書けません。私たちは、次の順番で決め直しました。

1
1日の仕事を、朝から夜まで全部書き出す。誰がいつ何をしているかを、1つずつ紙に並べます。
2
仕事を「人がやる」「仕組みに任せる」「やめる」の3つに分ける。接客・清掃・調理は人に残します。決まった時刻の連絡や数字の集計は仕組みに任せ、同じことを何か所にも伝え直す作業はやめます。
3
人に残った仕事を、時間帯ごとに並べる。どの時間帯に何人いれば回るかが、ここで見えてきます。
4
忙しい日と例外の日でも回るかを試す。急な欠勤や当日のキャンセルがあった日を、机の上で起こしてみます。

私たちは2026年に引き継いだ全9室の松川館で、営業再開の前にこの見直しをしました(スタッフの人数の内訳は、この記事では書きません)。

仕事の仕分け方は、「宿泊業の人手不足対策を「採用」以外で考える|仕事を3つに仕分けて必要な人数を設計し直した記録」に詳しく書いています。

女将・支配人候補の募集で公開した、仕事と3つの基準

松川館で女将・支配人候補を募集したときは、求人票には書けないことを記事にまとめて公開しました。公開したのは、次の5つです。

公開したこと 中身
仕事内容と1日の流れ 朝・昼・午後・夕方・夜の時間帯に分けて、何をするかを書きました。
大切にしている3つの基準 「志を持ち、染まらず、共鳴できる人」「自分を含め、人のために至誠を尽くせる人」「調和し、円融自在でいられる人」の3つです。
どんな人と働きたいか 働きたい人の姿に加えて、向いていない人も書きました。
待遇の考え方 雇用の形は正社員・パートなどで相談できることと、少人数で回す方針を書きました。
応募から選考までの流れ カジュアル面談から始めて宿を見にきていただき、基準に沿って正式な面談をする流れを書きました。

※「至誠」は、まごころを尽くすことです。「円融自在」は仏教由来の言葉ですが、宗教的な意味では使っていません。

それぞれの基準には、どんな行動を指すのかがわかるように、場面の例も添えました。

たとえば「至誠」では、予約の重複が起きたときに、誰が悪いかより重複が起きた仕組みを一緒に考える人を挙げています。「志」では方針に疑問を感じたら理由を聞きにいく人、「円融自在」では意見が割れたときに両方の言い分を聞ける人です。

3つの基準のうち「志を持ち、染まらず、共鳴できる人」は正社員にだけ求め、パートの方には求めていません。雇用の形ごとに求めることを分けて書くと、応募する人が自分に当てはまるかを判断できます。

実際に公開した記事は、「地方の宿で働くとはどういうことか|女将・支配人候補を募集しています」で読めます。

求人の1日の流れは、仕込みから締めまで時刻で書く

求人票の仕事内容に「接客業務全般」と書いても、応募する人は1日をどう過ごすのかを想像できません。採用ページでは、仕事の中身を時間の順に書きます。

求人票によくある書き方 採用ページでの書き方
接客業務全般 夕方はチェックインの対応です。宿までの道のりや周辺のことをお話ししながら、お客様をお迎えします。
調理補助 昼に翌日以降の予約を確かめて、食材の仕入れと仕込みをします。
清掃業務 朝は布団を上げて、客室と共用部を掃除します。掃除のあとは、チェックアウトのお客様のお見送りです。

書き方が決まったら、1日の流れを時刻つきの表にします。下は、旅館の1日を仕込みから締めまで並べたひな形です。

時刻 すること
○時○分 朝食の準備と提供
○時○分 布団上げと、客室・共用部の清掃
○時○分 チェックアウトのお見送り
○時○分 休憩(中抜けがある場合は、何時から何時までかを書く)
○時○分 食材の仕入れと仕込み、翌日以降の予約の確認
○時○分 チェックインの対応
○時○分 夕食の提供と接客
○時○分 1日の締め(翌日の予約と仕込みの確認)

※○の部分に、自分の宿の時刻を入れてください。中抜けとは、昼の空き時間にいったん仕事を離れる働き方のことです。

架空の記入例:全9室の宿の、1日の勤務表

次の表は、全9室の宿を想定して私たちが作った架空の記入例です。松川館を含めて、実在の宿の勤務表ではありません。

この日は7室にお客様が泊まり、4人が出勤する想定です。AさんとBさんを正社員、CさんとDさんをパートとして、担当の欄に名前を入れました。

正社員の2人は、中抜けをはさんで1日の勤務が8時間に収まるように組んでいます。パートのCさんは朝に、Dさんは夜に、4時間30分ずつ入る想定です。

時刻 すること 担当
6時30分〜7時30分 朝食の仕込み Bさん(調理)
7時〜7時30分 出勤して、朝食の配膳の準備 Cさん(朝の配膳と清掃)
7時30分〜9時 朝食の提供と片付け Bさん・Cさん
9時〜11時30分 布団上げと、客室・共用部の清掃(11時30分に退勤) Cさん
9時〜14時 中抜けの休憩 Bさん
10時〜11時30分 出勤して、チェックアウトのお見送りと精算 Aさん(フロント)
11時30分〜14時30分 中抜けの休憩 Aさん
14時〜16時30分 食材の仕入れと、夕食の仕込み Bさん
14時30分 翌日以降の予約の確認と、部屋割り Aさん
15時〜18時 チェックインの対応と、宿までの道のりや周辺のご案内 Aさん
16時30分 出勤して、Aさんから夕食の申し送りを受ける Dさん(夜の配膳)
18時〜20時30分 夕食の提供と接客(Bさんは翌朝の仕込みを確かめて、19時30分に退勤) Aさん・Bさん・Dさん
20時30分〜21時 夕食の片付け Dさん
21時 1日の締め(翌日の予約を確かめ、申し送りを書く) Aさん

上の勤務表では、朝食の時間帯に2人、夕食の時間帯に3人が同時に動いています。時間帯ごとに同時に動く人数を数えると、どの時間帯に何人を置けばよいかが分かります。

採用ページには、募集する人が担当する行だけを抜き出して載せます。

たとえば夜の配膳のパートを募集するなら、Dさんの担当の16時30分から21時までが1日の流れになります。

繁忙期と閑散期で1日の流れが変わる宿は、両方を書きます。松川館の募集では時間帯までしか書きませんでしたが、時刻まで入れると、働く日の暮らしがさらに具体的に伝わります。

待遇の考え方と選考の流れを、応募の前に見せる

給与の額や寮費・住宅手当が未定でも、決め方は先に書けます。採用ページには、次の4つを書きます。

1
雇用の形ごとの違い。正社員とパートで、求めることや任せる仕事がどう違うかを書きます。
2
給与の決め方。経験で変わるのか、何ができるようになると上がるのかを書きます。
3
住まい。寮があるか、住宅の手当があるかを書きます。
4
休日の取り方。繁忙期と閑散期で休み方が変わるかを書きます。

松川館の募集記事では、給与や住居などの具体的な待遇は、あとで正式な求人情報を公開するときにお伝えすると書きました。記事を出した時点では、正式な求人情報がまだ準備中だったためです。先に書いたのは、雇用の形を相談できることと、少人数で回す方針です。

選考の流れも、応募の前に見せます。松川館の募集で公開した順番は、次のとおりです。

1
カジュアル面談を申し込んでいただく。いきなりの応募ではなく、お互いを知る場から始めます。
2
面談で、宿の現状をお話しする。良い面もそうでない面も含めて、いまの宿の状態をお伝えします。
3
宿を見にきていただく。働く場所の様子を、実際に見ていただきます。
4
基準に沿って、正式な面談をする。スキルより、3つの基準に合うかをお互いに確かめる場です。

面談から先のペースを急かさないことも、あわせて書きました。向いていない人の姿を書いたのは、入ってから「思っていた職場と違う」と感じる人を減らしたかったからです。

公式サイトに募集のページを置き、SNSからつなぐ

採用ページは、宿の公式サイトの中に置きます。宿の写真やお客様向けのページと同じ場所にあると、働く場所の様子まで伝わるからです。

求人サイトに募集を出す場合も、宿の名前で調べた人が採用ページにたどり着けるようにしておきます。私たちがすすめる入口の置き場所は、次の4つです。

1
公式サイトのメニューとページの下部。「採用情報」など、見てすぐ分かる名前でリンクを置きます。
2
Instagramなどのプロフィール。プロフィールのリンクから、採用ページに行けるようにします。
3
募集を知らせる投稿。1日の流れの一部や働く人の様子を書き、最後に採用ページへの行き方を添えます。
4
求人サイトの募集文。掲載先の決まりで書ける範囲で、採用ページのことを案内します。

SNSの投稿で採用ページを知った人は、宿の雰囲気をすでに見ています。投稿と採用ページの中身をそろえておくと、応募する前の印象と実際の仕事の差が小さくなります。

少人数の設計を架空の7人で試し、穴が15個出た

見直した結果、必要な人数が少なくなったら、募集の前にその人数で本当に回るかを机の上で試します。松川館では営業再開の前に、架空のスタッフ7人で1ヶ月の営業を最後まで通してみました。

急な欠勤・当日のキャンセル・月末の締め日のように、荒れた日をわざと入れています。架空のスタッフそれぞれに、勤務日数・役割・その人のクセを決めた人物設定を作り、毎日の勤務を順に動かしました。

ふだんの日は回る設計でも、例外の日には仕組みが止まる場面がありました。

この方法で見つかった穴は、全部で15個です。どれも例外の日に起きるもので、ふだんの日には出てきませんでした。15個のうち、代表の3つを次の表にまとめます。

荒れた日 見つかった穴
急な欠勤の日 休んだ人の仕事が、誰の担当にもならずに宙に浮きました。
当日のキャンセルがあった日 決めてあった部屋割りの前提が、キャンセルで崩れました。
月末の締め日 やることが一気に増えて、申し送りが埋もれました。

欠勤の連絡を受けたときにその日の段取りを組み直す手順は、このテストのあとで足したものです。

試さないまま人数を減らすと、いちばん忙しい日に現場が回らなくなります。

自分の宿で、穴を書き出す手順

机の上で試すときは、次の順番で進めます。

1
架空のスタッフの人物設定を作る。1人ずつ、勤務日数・役割・その人のクセを決めます。
2
荒れた日を入れた1ヶ月の予定を作る。急な欠勤・当日のキャンセル・月末の締め日を、わざと予定に入れます。
3
勤務表に沿って、1日ずつ動かす。その時間帯の仕事に手の空いている人がいない場面を、穴として表に書きます。
4
穴ごとに、組み直しの手順を決める。誰が連絡を受けて誰に仕事を回すのかを、書き出し表の右端の欄に書きます。

架空の記入例:穴の書き出し表

次の表は、上の勤務表と同じ架空の宿を想定して私たちが作った記入例です。松川館を含めて、実在の宿で起きたことではありません。

日 荒れた日の出来事 手が回らない仕事(穴) 決めた組み直しの手順
3日目(架空の例) 夜の配膳のDさんから、当日の朝に休むと連絡がありました。 18時から20時30分の夕食の配膳 連絡を受けたAさんが、Cさんに夜の配膳を頼めるかを聞きます。頼めない日は、Aさんが配膳に回り、Bさんは料理を出す順番をまとめて、退勤までに出し終えます。
12日目(架空の例) 15時に、2室の当日のキャンセルが入りました。 部屋割りの組み直しと、夕食の仕込みの量の変更 キャンセルを受けたAさんが、その場で部屋割りを直します。直したあとで、Bさんに仕込みの量を伝えます。
30日目(架空の例) 月末の締め日で、精算と翌月の予約の確認が重なりました。 21時の申し送りを書くこと 締め日は、Aさんが申し送りを先に書いてから、精算を始めます。
(記入欄)      
(記入欄)      

※記入欄の行に、自分の宿の勤務表で見つかった穴を書き足してください。

この記事に、採用の結果の数字を書いていない理由

松川館は営業再開の準備中のため、募集から採用までの結果はまだ数字でお伝えできません。この記事に書いたのは、募集を出す前にやったことと、募集のときに公開した中身です。

宿泊業で人が採りにくい理由と業界のデータは、「宿泊業で人手不足になる理由を、募集を出した側から分けて書く|業界の構造と、小さな宿でぶつかったこと」にまとめています。

採用ページのチェックリスト

□
1日の仕事を、朝から夜まで書き出した
□
仕事を「人がやる」「仕組みに任せる」「やめる」に分けた
□
決めた人数で、例外の日も回るかを試した
□
1日の流れを、時刻つきの表にした
□
大切にしている基準と、向いていない人を書いた
□
待遇の考え方と、選考の流れを書いた
□
採用ページを、公式サイトの中に置いた
□
SNSのプロフィールから、採用ページにつないだ

宿の集客の手順は、資料「脱OTAの全手順|宿の自社集客 9つの実践マニュアル」に9章でまとめています。チェックリスト70項目を含む全31ページを、印刷できるPDFでお送りします。

よくある質問

求人サイトに載せるだけでは、足りませんか。

求人サイトの項目には、1日の流れや大切にしている基準を書ける量に限りがあります。求人サイトは入口として使い、詳しいことは公式サイトの採用ページに書きます。

待遇は、どこまで書けばよいですか。

金額がまだ決まっていなくても、決め方の考え方は書けます。雇用の形ごとの違い・給与の決め方・住まい・休日の取り方を書くと、応募する人が暮らしを想像できます。

採用ページは、どこに置けばよいですか。

宿の公式サイトの中に置きます。SNSのプロフィールや投稿・求人サイトの募集文から、そのページにつなぎます。

何人採ればよいのか、分かりません。

募集の前に1日の仕事を全部書き出し、人がやる仕事・仕組みに任せる仕事・やめる仕事に分けます。人に残った仕事を時間帯ごとに並べると、何人いれば回るかが見えてきます。

応募が来ないときは、何から直せばよいですか。

まず、採用ページに1日の流れと大切にしている基準が書いてあるかを確かめます。次に、公式サイトやSNSから採用ページにたどり着けるかを見ます。

無料相談はこちら

採用ページの整備と、求人の募集のご相談を承っています。支援の内容は、「旅館・ホテルの集客支援|OTA・公式サイト・SNS・広告など9つの施策を1社で運用」のページをご覧ください。

ご相談は無料です。Zoomで1時間ほど、お話を伺います。相談だけで終えていただいて構いません。

関連ページ