募集を出しても、応募が来ない。人が続かない。そうやって悩んでいるとき、多くの人が「宿泊業 人手不足 理由」と検索します。私も、同じことを調べた側です。だから、まず先にお伝えします。人が集まらないのは、あなたの宿が特別だからではありません。この記事では、その理由を「業界の構造」と「現場で実際に起きること」の2つに分けて並べます。構造の側は、公的なデータで確かめます。現場の側は、私が創業140年・全9室の宿で募集を出してぶつかったことを書きます。対策には踏み込みません。対策は、別の記事に分けています。
先に2つ、正直にお断りします。1つめは、この記事で引く業界の統計は、すべて各機関の公表資料そのもので確認したものだということです。確認した日は、2026年8月19日です。出典は、その数字を書いた場所に添えます。2つめは、私たちの宿はまだ営業の再開前で、準備の段階だということです。だから、この記事で私が書く現場の話は「募集を出して、実際にぶつかったこと」までです。採用がうまくいった、という結果としては書きません。
いま人が採れなくて苦しい方に、長い前置きは要らないと思います。結論から先にお伝えします。宿泊業で人が集まらない理由は、大きく分けると、次の4つに整理できます。1つの宿の努力不足ではなく、業種の構造として起きているものが中心です。
この4つを、これから1つずつ、2つの角度から見ていきます。1つめの角度は、公表されている統計です。宿泊業という業種の全体で、何が起きているかを確かめます。2つめの角度は、私自身が創業140年・全9室の宿で、募集を出して実際にぶつかったことです。数字と実感を対にして並べると、「うちだけが駄目なのか」という不安の正体が、少し見えてくると思います。対策の各論は、この記事では書きません。理由がわかったあとに読む記事へのリンクを、最後にまとめます。
「宿泊業 人手不足 理由」と調べる人が、本当に知りたいことは、統計の数字そのものではない気がしています。知りたいのは、たぶんこうです。人が採れないのは、自分の宿のやり方が悪いからなのか。それとも、みんな同じように苦しんでいるのか。この線引きが、次に何をするかを大きく変えるからです。
私は、その問いを持ったまま、実際に募集を出している側です。私たちは、この宿の女将や、支配人の候補を、いまも募集しています。どういう人と働きたいか、どんな仕事なのかは「地方の宿で働くとはどういうことか(女将・支配人候補を募集しています)」に書いています。つまり、求人を出す側の景色を、いま自分の目で見ています。
正直に書くと、私がこの宿にAIを増やした出発点も、人が採れなかったことでした。かっこいい戦略の話ではありません。求人を出しても、専門のスキルを持つ人が近くに多くいない。応募が集まりにくい。そのあいだにも、宿の準備は進めないといけない。この現実にぶつかって、初めて「そもそも、この仕事は全部を人がやる必要があるのか」を問い直しました。だから私は、理由を軽く見ていません。理由の正体がわからないままだと、打ち手も的を外します。
この宿の入口の状況も、先に書いておきます。私たちが引き継いだのは、長野の山あいにある創業140年の旅館です。全部で9室の、小さな宿です。引き継いだ時点で、宿は3ヶ月止まっていました。電気も止まっていました。まず電気を通すところから始めた宿です。人手の話をするときの前提として、この規模と状態を頭に置いて読んでいただけると、実感が伝わりやすいと思います。
まず、業種全体の景色を、公表されている統計で確かめます。ここは私の実感ではなく、数字の話です。いずれも、各機関の公表資料で確認しました。確認した日は、2026年8月19日です。
最初に、帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査」です。この調査で、非正社員の人手不足を感じている企業の割合を業種別に見ると、旅館・ホテルは2025年10月の調査で59.0%と、調査対象51業種の中でいちばん高い水準でした。2025年は、4月が51.8%、7月が51.7%、10月が59.0%と、高い状態が続きました。直近の2026年4月の調査では38.5%まで下がり、4年2カ月ぶりに3割台になりました。ただ、これは旅館・ホテルという業種の非正社員に限った数字で、それでもなお、人手不足を感じる企業が3社に1社を超えています。
次に、厚生労働省の雇用動向調査をもとにした数字です。宿泊業・飲食サービス業の「欠員率」(人が足りていない求人の割合)は、2024年で4.4%でした。全産業の平均である2.9%を、大きく上回っています。前の年の2023年は6.1%と、さらに高い水準でした。求人を出しても埋まらない席が、他の業種より多い、ということです。
政府も、この状況をはっきり言葉にしています。観光庁と厚生労働省がまとめた2025年6月の資料では、宿泊業について「他業種と比較して欠員率が高く、構造的な課題として人手不足に陥っている」と書かれています。同じ資料によると、宿泊業の従業員数は2024年時点で58万人で、コロナ前の2019年の65万人まで戻っていません。人が減ったまま、需要だけが戻ってきている、という状態です。
ここまでの数字が伝えているのは、一つのことです。宿泊業の人手不足は、一つの宿の頑張りが足りないから起きているのではなく、業種の構造として起きている、ということです。この事実は、苦しんでいる方の自責を、少し外してくれると思います。ただし、構造のせいだと言って終わりにするための事実ではありません。構造が理由なら、理由を細かく分けて、どこに自分の宿の穴があるかを見つけるために使います。次の節で、その構造を分解します。
「構造的に人手不足」と言われても、まだ大きすぎて、自分の宿に引きつけにくいと思います。だから、その構造を3つの理由に分けて、それぞれに、私が募集を出した側で実際にぶつかったことを対で置きます。数字の側と、現場の側を、並べて読んでみてください。
いちばん根っこにあるのが、これだと思っています。宿で働ける人の数、つまり母集団そのものが、とくに地方では少なく、年々減っています。全国で見ても、宿泊業の従業員数は2024年で58万人と、コロナ前の65万人まで戻っていません。人が戻らないのに、需要は戻っている。取り合いになるのは当然です。
私の実感を、対で書きます。私は地方を拠点にしています。都市部と違って、宿の運営や、広告のような専門の仕事ができる人が、近くにたくさんいるわけではありません。求人を出しても、応募が集まりにくい。移住を前提にした採用も考えましたが、条件を整えるだけで時間がかかります。募集を出せば人が来る、という前提そのものが、地方では成り立ちにくい。これが、私が最初にぶつかった壁でした。母集団が小さいと、採用の技術を磨く以前に、応募が届くところからして遠いのです。
次に、条件の話です。ここは、私の宿の待遇の話ではありません。私たちの給与や待遇の中身は、宿が特定されるため公開していません。ここで書くのは、業種全体の公的なデータです。観光庁がまとめた令和8年版の観光白書によると、宿泊業の年間の賃金総支給額は、全産業の546万円に対して411万円と示されています。働く人が、他の業種と条件を並べて比べたとき、選ばれにくい水準にある、ということです。
ここで大事なのは、順番です。賃金が低いのは、宿がけちだからとは限りません。あとで触れますが、宿泊業は労働生産性そのものが他業種より低いため、賃金を上げる原資が作りにくい、という構造があります。だから、募集の条件だけを見て「うちの待遇が悪いせいだ」と自分を責めても、話が進みません。私も、条件の勝負だけでは大きな会社に勝てない、と早い段階で感じました。だから私は、条件を上げる勝負とは別に、そもそも必要な人数を減らせないか、という問いに向かいました。その具体は、この記事では書きません。原因の話に集中します。
3つめは、仕事の波です。宿は、土日や連休にお客様が集中し、平日は静かになります。この波が大きいほど、忙しい日に合わせて人を抱えると平日が余り、平日に合わせると忙しい日に足りない、という板挟みになります。働く側から見ると、勤務が不規則になりやすく、続けるハードルが上がります。
私の実感を対で書きます。全9室の小さな宿でも、この波は同じでした。しかも、人を一人採用すると、忙しい日も暇な日も関係なく、毎月の固定費が発生し続けます。売上にまだ波がある準備の段階で、固定費を先に積むことには、慎重にならざるを得ませんでした。忙しい日のピークに人数を合わせたいのに、暇な日のことを考えると増やせない。この矛盾が、小さな宿ほど重くのしかかります。人手不足の理由は、「人が来ない」だけではなく、「波に合わせて人を持ちにくい」という側面もある、ということです。
この3つの理由を対で並べてみると、共通することが見えてきます。どれも、一つの宿の努力で今日すぐ消せる理由ではない、ということです。だからこそ、努力の方向を「もっと頑張って採る」だけに置くと、構造に押し返されて疲れてしまいます。ここが、原因を分けて見ておく意味だと思っています。
ここまでは「採れない」という入口の話でした。もう一つ、人手不足を深くしている理由があります。採れても辞めやすい、という出口の話です。採用の穴は、辞める人が出るたびに、また開きます。だから、採る力だけを見ても、人手不足は説明しきれません。
数字で確かめます。厚生労働省の令和6年(2024年)の雇用動向調査では、宿泊業・飲食サービス業の離職率は25.1%でした。全産業の平均は14.2%です。同じ調査で、人が入る割合である入職率は28.4%で、全産業の平均14.8%を上回っています。入る人も、辞める人も、全産業の中でトップ級に多い。つまり、たくさん採用して、たくさん辞めていく。人が定着せず、ぐるぐると入れ替わり続ける構造がある、ということです。採用のコストを払い続けても、水位が上がりにくいのは、このためです。
なぜ辞めやすいのか。ここは、私の実感ではなく、これまで見てきた構造の話として書きます。前の節で見た、賃金が他業種より低いこと、繁忙期と閑散期で働き方が不規則になりやすいこと。この2つは、採用を難しくするだけでなく、辞める理由にもそのままつながります。入りにくく、続きにくい。同じ構造が、入口と出口の両方で効いている、ということです。
この事実は、募集を出す側にとって、少し残酷でもあります。がんばって一人採用しても、辞めやすい構造がそのままなら、また同じ募集を出すことになります。だから、私は採用の力を上げることと同じくらい、「そもそも、その仕事は人が続けられる形になっているか」を見る必要があると考えました。ただし、その直し方の各論は、この記事の役割ではありません。ここでは、離職率の高さもまた、業種の構造から来ている、という理由の確認に留めます。
もう一つ、検索でよく見かける言葉があります。「宿泊業は生産性が低い」という言い方です。これは、ただの印象ではなく、公的なデータでも示されています。そして、この生産性の低さが、これまで見てきた採用の難しさと、一本の線でつながっています。
数字を出します。観光庁がまとめた令和8年版の観光白書によると、宿泊業の労働生産性、つまり従業員一人あたりが生み出す付加価値額は、2024年度で587万円でした。全産業の817万円に対して、およそ7割の水準です。この差は、一時的なものではなく、長く続いている傾向だと白書は書いています。
では、なぜ低いのか。理由は、宿という仕事の性質にあります。宿泊業は、接客も、清掃も、調理も、多くを人の手でおこなう、労働集約的な仕事です。一人が受け持つ範囲が、機械で置き換えにくい。さらに、繁忙期と閑散期の差が大きいため、忙しい日に合わせて人を持つと、暇な日には手が余ります。この余りが、一人あたりの生み出す価値を押し下げます。数字が低いのは、働く人がさぼっているからではありません。仕事の作りが、そうさせている、ということです。
ここからが、採用に跳ね返る仕組みです。生産性が低いと、一人が生み出す付加価値が小さいので、賃金を上げる原資が作りにくくなります。賃金が上げにくいと、他業種と条件で比べられたとき、選ばれにくくなります。選ばれにくいと、人が採れず、少ない人数に負担が偏り、さらに生産性が上げにくくなります。理由①から③、そして離職率と生産性が、別々の問題ではなく、ひとつの輪の中でつながっている。ここまで並べて、私はそう理解しました。
この輪をどこかで断ち切らないと、募集の努力だけでは追いつきません。私が「そもそも必要な人数を減らせないか」「繰り返しの仕事を人以外に渡せないか」という問いに向かったのは、この輪を見たからです。ただ、繰り返しになりますが、その打ち手の中身は、この記事では書きません。原因の輪が見えたところで、次に読む記事へ送ります。
ここまで、理由を並べてきました。最後に、正直に線を引いておきたいことがあります。私はこの記事で、採用の成功談を語れる立場にはいません。私たちの宿は、営業の再開に向けた準備の段階で、本番のお客様を、まだ一度も迎えていないからです。だから、募集を出してぶつかったことは書けますが、採用がうまくいった、という結果としては書けません。
それでも一つ、原因を考える人に渡せる失敗があります。理由がわかると、人はつい「では、必要な人数を減らそう」と、対策に急ぎます。私も急ぎました。そして、机の上で一度つまずきました。営業を再開する前に、私たちは、架空のスタッフ7人に、仮想の1ヶ月を演じてもらうテストをしました。急な欠勤、当日のキャンセル、月末の締め日。荒れた日をわざと盛り込んで、少ない人数の設計が、その1ヶ月を最後まで持ちこたえられるかを見たのです。
結果は、はっきりしていました。平常な日は、少ない人数でもきれいに回るのに、例外の日になった瞬間に、設計が手を離す。この方法で見つけた穴は、15個ありました。人手不足の理由がわかったからといって、いきなり人数を削ると、いちばん忙しい日に現場が壊れます。原因の理解と、対策の設計のあいだには、この「例外の日」という溝がある。理由を知った人ほど、ここに落ちやすい。私自身が落ちたので、正直に書いておきます。
景気のいいことを書くほうが、記事としては映えると思います。でも、まだ計測前のことを成果のように書けば、それは盛りになります。だから私は、「募集を出してぶつかったところまでは書けます。採用の成否は、本番で数字が取れてから、また正直に書きます」と言うほうを選びます。うまくいったことも、いかなかったことも、これから正直に足していきます。
この記事の役割は、ここまでです。「なぜ採れないか」の理由を、業界の構造と、募集を出した側の実感で分けて並べました。対策の各論は、あえて書きませんでした。理由と対策を1本に詰め込むと、どちらも中途半端になるからです。理由が見えたところで、次に読む記事を、段階に合わせて置いておきます。
いちばん小さな一歩は、対策の記事を読む前に、自分の宿の仕事を紙に書き出してみることだと思います。朝から夜まで、誰が何をしているか。それを並べるだけで、人がやるべき仕事と、そうでない仕事の輪郭が、少し見えてきます。人手不足の理由は業種の構造にありますが、手をつけられる場所は、いつも自分の宿の中にあります。
やり方の問題だけではありません。宿泊業は、業種そのものとして人が採りにくい構造にあります。帝国データバンクの調査では、非正社員の人手不足割合を業種別に見ると、旅館・ホテルが2025年10月に59.0%と、調査対象の中でいちばん高い水準でした。観光庁と厚生労働省の資料も、宿泊業を「構造的な課題として人手不足に陥っている」と書いています。あなたの宿が特別なのではなく、業種の構造が背景にある、と考えるところから始めるのが正確だと思います。
短期の数字には、良い動きもあります。帝国データバンクの旅館・ホテルの非正社員の人手不足割合は、2025年10月の59.0%から、2026年4月には38.5%まで下がりました。ただ、これは景気や季節でも動く数字です。欠員率が全産業より高いこと、入職率も離職率も全産業でトップ級であることといった、業種の構造そのものは、短期では変わりません。数字の上下だけで安心せず、構造の側を見ておくことをおすすめします。
厚生労働省の雇用動向調査では、宿泊業・飲食サービス業の離職率は2024年で25.1%と、全産業の平均14.2%を大きく上回っています。同時に、人が入る割合である入職率も28.4%と全産業トップ級です。つまり、たくさん入って、たくさん辞める。人の出入りが激しい構造があります。背景には、繁忙期と閑散期の差が大きく働き方が不規則になりやすいことや、賃金や生産性が他業種より低い水準にあることが、公的な資料で示されています。
この記事は「なぜ採れないか」の原因側だけを書いています。対策は、別の記事に分けています。採用を頑張る以外に、必要な人数そのものを設計し直すという打ち手を「宿泊業の人手不足対策を採用以外で考える」に、繰り返しの仕事をAIに渡した実際の運用を「宿泊業の人手不足をAIでどう補ったか」にまとめました。まずは自分の宿の仕事を書き出して、人がやる仕事と、そうでない仕事に分けるところから始めるのが、いちばん小さな一歩になります。