人が採れない。募集を出しても、応募が来ない。宿泊業では、これがめずらしい話ではありません。だから「採用を頑張る」の前に、私はもう一つの対策を考えました。必要な人数そのものを、設計し直す、という方法です。仕事を「人がやる・AIに渡す・そもそもやめる」の3つに仕分けると、何人で回すかは動かせます。地方で創業140年・全9室の宿を運営する当事者として、実際にやったことを正直に書きます。
先に2つ、正直にお断りします。1つめは、私たちの宿の具体的なスタッフ人数の内訳は出しません。人数を細かく書くと、宿が特定されるためです。代わりに、必要な人数を減らすための「考え方」を全部お出しします。2つめは、この宿はまだ営業の再開前で、準備の段階だということです。本番のお客様を迎えてからの数字は、これから計測します。ここに書くのは、その準備期間に、スタッフ同士の業務で毎日動かして確かめてきた設計です。
人手が足りないとき、多くの宿はまず「どうやって採用するか」を考えます。もちろん、それも大切です。ただ、宿泊業は、採用そのものが年々むずかしくなっています。募集を出しても、応募が集まらない。この現実は、あとで公的なデータでも確かめます。
だから私は、採用と並べて、もう一つの対策を先に置きました。人を増やす前に、必要な人数そのものを減らす、という考え方です。減らすのは人ではありません。人がやる「仕事の数」のほうです。手順は、大きく5つに分けられます。
ここから先は、この5つを私が実際にどうやったかの記録です。うまくいった話だけでなく、つまずいた話も、まだ確かめきれていない話も、正直に書きます。AIの具体的な使い方の各論は、別の記事に分けています。この記事は「何人で回すかの設計」に絞ります。
「うちの宿だけ、人が採れないのだろうか」。そう感じている方に、先に伝えたいことがあります。人が採りにくいのは、あなたの宿が特別だからではありません。宿泊業という業種の、構造の問題です。ここは私の実感だけでなく、公表されている統計で確かめます。数字はいずれも、各機関の公表資料で確認しました。確認した日は、2026年8月18日です。
まず、帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査」です。この調査で、非正社員の人手不足を感じている企業の割合を業種別に見ると、旅館・ホテルは2025年10月の調査で59.0%と、51の業種の中でいちばん高い水準でした。2025年は、4月が51.8%、7月が51.7%、10月が59.0%と、高い状態が続いています。直近の2026年4月の調査では38.5%まで下がりましたが、それでも人手不足を感じる企業が、3社に1社を超えています。
公的な統計も見ます。厚生労働省の雇用動向調査では、宿泊業・飲食サービス業の「欠員率」(人が足りていない求人の割合)が、2023年に6.1%まで上がりました。産業の中でも高い水準です。2024年は4.4%に下がりましたが、それでも全産業の平均である2.9%を大きく上回っています。
もう一つ、人の出入りの激しさもあります。同じ雇用動向調査で、宿泊業・飲食サービス業は、人が入る割合(入職率)も、辞める割合(離職率)も、全産業の中でトップ級です。採っても辞めていきやすい構造がある、ということです。
政府も、この状況をはっきり言葉にしています。観光庁と厚生労働省が関わった2025年6月の資料では、宿泊業について「他業種と比較して欠員率が高く、構造的な課題として人手不足に陥っている」と書かれています。同じ資料によると、宿泊業の従業員数は2024年時点で58万人で、コロナ前の2019年の65万人まで戻っていません。
ここまでの数字が伝えているのは、一つのことです。宿泊業の人手不足は、頑張りが足りないから起きているのではなく、業種の構造として起きている、ということです。だとすれば、対策も「もっと頑張って採る」だけでは足りません。採る以外の打ち手を、採用と同じ重さで持つ必要があります。
ここで、私自身の順番を書きます。かっこいい戦略から始まったわけではありません。私が現場にAIを増やした出発点は、人が採れなかったことでした。
私は地方を拠点にしています。宿の運営に加えて、広告やSEOのようなマーケティングの仕事も自社でやっています。都市部と違って、こうした専門のスキルを持つ人が、近くにたくさんいるわけではありません。求人を出しても、応募が集まりにくい。移住を前提にした採用も考えましたが、条件を整えるだけで時間がかかります。そのあいだにも、宿の準備は進めないといけません。
人手が足りないとき、選べる道は3つあります。人を増やす。外注する。AIを使う。私は3つとも、順番に検討しました。
固定費の話もしておきます。人を一人採用すると、成果があってもなくても、毎月の固定費が発生し続けます。宿の売上にまだ波がある段階で、固定費を先に積むことには慎重でした。AIは、使った分だけの費用で、小さく始められます。
ここで大事なのは、順番です。私はいきなり「AIを入れよう」と決めたのではありません。人が採れないという現実にぶつかって、初めて「そもそも、この仕事は人がやる必要があるのか」を問い直しました。その問い直しが、次の3つの仕分けにつながります。この順番については、人を増やさずに事業を広げるという考え方を、別の記事「少数精鋭という経営判断(なぜ人数を増やさずに事業を広げるのか)」でもう少し広く書いています。
ここが、この記事の中心です。必要な人数を決めているのは、じつは「仕事の数」です。だから、人数を動かしたいなら、仕事のほうを動かします。私は、宿で発生する仕事を、次の3つに仕分けました。
この3つに分けると、必要な人数の見え方が変わります。多くの宿は、無意識に「全部を人がやる」を前提にしています。だから、仕事が増えると、人を増やすしかなくなります。でも、②と③に動かせる仕事が思ったより多い。②で実行者を替え、③で仕事自体を無くすと、①に残る仕事はぐっと減ります。①が減れば、必要な人数も減ります。
ただ、②と③の境目は、いつもきれいには分かれません。「毎朝、数字を目視で確認する」という作業は、AIに見張らせれば②ですが、人が毎朝見に行くこと自体をやめる、と考えれば③でもあります。どちらに置くかで迷ったら、私は「人がその作業に費やす時間がゼロになるか」で判断します。ゼロになるなら、実質は③です。
この記事では、①に何を残し、②③に何を動かすかの「線引き」の各論までは踏み込みません。補うこと・あえて補わないことの線引きは、別の記事「少人数運営の宿が、AIで補っていること・あえて補っていないこと」に詳しく書いています。ここでは、3つに分けると必要人数が動く、という設計の話に絞ります。
考え方だけだと、絵に描いた餅になります。うちの宿は、全部で9室の小さな宿です。この規模を、営業を再開したあとに人を増やさずに受ける想定で、3つの仕分けを実際にどう当てはめたかを書きます。まだお客様は迎えていませんが、仕分けそのものは、準備期間のいまもう動かしています。
まず、実行する役をAIに替えた仕事です。分かりやすい一つが、朝の連絡です。うちは、現場の連絡をぜんぶ一か所のチャット(Slack)に集めていて、そこに自動で動く仕組みを常駐させています。私たちは、これを「AI女将」と呼んでいます。
この仕組みが、毎朝、その日の段取りと、その日の宿泊のお客様の一覧(組数・人数・特記事項)をまとめて配信します。時間になると、部屋割りを確定させ、翌週のシフトが足りているかを確認して、足りない日には印をつけて知らせます。夜には、その日のまとめを責任者に送ります。派手な自動化ではありません。毎日繰り返す連絡を、決まった時刻に、決まった形で、忘れずにやる。それだけです。ですが、この地味な連絡こそが、いちばん人の手を空けてくれます。中身は「Slackに常駐するAIスタッフ「AI女将」は何をしているか」で詳しく見せています。
数字の見張りも、AIに渡しました。毎朝、決まった数字を自動で集めて、前の日と比べて異常がないかを確認し、おかしければ人に知らせます。人がやるのは、その知らせを見て「では、こうしよう」と決めるところだけです。集めて、異常を見つけて、知らせる、まではAIがやり、判断だけを人に上げます。AIの具体的な使い方の各論は、「宿泊業の人手不足をAIでどう補ったか(実際にやっている運用)」にまとめています。
次に、仕事そのものを無くしたものです。私は、これがいちばん人数に効いたと感じています。
一つめは、同じ情報を何か所にも伝え直す作業です。以前は、一つの変更があると、本人に伝えて、現場に伝えて、台帳を直す、という3往復が発生していました。これを、責任者がチャットに1行書くだけで、全部が自動で流れる形にしました。3往復という作業そのものが、無くなりました。
二つめは、新しく入った人のために、AIへ知識を教え込む特別な作業です。ふつうは、管理画面を開いて、マニュアルを登録して、という手間がかかります。うちは、現場で毎日起きている「質問と答え」が、そのまま宿の教科書になっていく設計にしました。だから、誰かが「AIに教える」ための特別な作業をしなくてよくなりました。
三つめは、毎朝、人がすべての数字を目視で見に行く作業です。これは、AIの見張りに置き換えたことで、人が毎朝それを見に行くこと自体をやめました。異常があったときだけ、人が数分、対応を判断します。
そのうえで、人に残した仕事があります。お客様のお迎えとお見送り、清掃、調理、そして一度きりの重い判断です。スタッフ同士の感謝のメッセージや、表彰も、AIには決めさせません。効率化の対象と、心を込める対象を混ぜないこと。これが、いちばん大事な線引きだと思っています。
この設計で効いているのは、派手な売上の数字ではありません。「小さな人数で、これだけの幅を落とさず回せている」ことのほうです。宿の準備と、広告やSNSのような別の仕事を、同時並行で見ています。全部を人でやろうとしたら、地方ではとても足りませんでした。念のため、もう一度書きます。これは営業再開前の準備期間に、スタッフ同士の業務で確かめてきた手応えです。本番のお客様を迎えてからの効果は、これから数字で確かめます。
「では、必要な人数はどこまで減るのか」。この問いに、私は人数の数字では答えていません。人数を細かく出すと、宿が特定されるためです。代わりに、こう言えます。②と③に動かせた仕事の分だけ、同じ人数で受けられる仕事の幅が広がりました。何人を何人にした、という数字ではなく、①に残した仕事に人をどれだけ集中させられたかで、私はこの設計の効きを見ています。
いいことばかり書くと、フェアではありません。この設計を進める中で、実際につまずいた3つを書きます。
2つめの「架空スタッフ7人で1ヶ月を通す」は、少し変わったやり方に見えるかもしれません。ですが、必要な人数を本気で設計するなら、平常時だけでなく、いちばん荒れた日に何人要るかまで見ておく必要があります。そこを見ずに人数を減らすと、忙しい日に現場が壊れます。
「うちでもできるのか」という方向けに、今日から手をつけられる形にします。専門の知識がなくても、この順番で見当がつきます。
この3ステップは、営業していない宿でもできます。むしろ、開ける前に仕分けておくほうが、あとから直すより楽です。②で「どこまでAIに任せ、どこから人が見るか」の線引きに迷ったら、私が実際に使っている基準を「「AIに任せる/任せない」の線引きをどう決めているか」に書いています。
すべての宿に、同じ形が当てはまるとは思っていません。向き不向きも、はっきり書いておきます。
この考え方が向いているのは、繰り返しの多い作業を日常的に抱えている宿、地方で採用に苦戦している宿、そして人数を増やさずに続けたい小さな宿です。うちがまさにそうでした。繰り返しと、無くても回る作業が思ったより多く、そこを②③に動かせたぶん、①に人を集中できました。
逆に、慎重に見極めたほうがいいのは、対人のサービスそのものが価値の核になっている宿や、一度きりの重い判断が多い場面です。ここを効率で削ると、宿の良さが痩せます。人数設計は、あくまで「①に残す仕事を、いちばん大切にするため」の道具です。①を削るための道具ではありません。この順番を取り違えると、人手不足の対策のはずが、宿の質を落とすことになります。
最後に、これは大事なことなので書いておきます。AIに任せるのは、人を減らすためではありません。人が、人にしかできないこと、たとえば大事な判断や、お客様へのおもてなしに集中するためです。必要な人数を設計し直すというのは、人を切ることではなく、限られた人の時間を、いちばん価値のある場所に集める、ということです。
採用は大切な打ち手の一つですが、それだけではありません。私は、採用の前に「その仕事は、本当に人がやる必要があるか」を見直しました。仕事を「人がやる・AIに渡す・そもそもやめる」の3つに仕分けると、必要な人数そのものを減らせます。人を増やす前に、仕事の数を減らす。この順番をおすすめします。
すべてを人なしで回すことはできません。お客様をお迎えする接客や、清掃、調理のような仕事は、人にしかできません。私がAIに任せているのは、数字の集計や、決まった連絡、記録の整理といった繰り返しの仕事です。人にしかできない仕事に人を集中させるために、それ以外を減らす、という考え方です。
私の考えは逆です。AIに任せるのは、人を減らすためではなく、人が人にしかできない仕事に集中するためです。繰り返しの連絡や数字の集計をAIが引き受けるぶん、スタッフはお客様への対応に手をかけられます。効率化する仕事と、心を込める仕事を、はっきり分けて設計しています。
試せます。私たちの宿は、営業の再開に向けた準備の段階です。本番のお客様を迎えてからの数字は、これから計測します。ただ、仕事を3つに仕分ける作業は、営業していない今の段階でもできます。むしろ、開ける前に仕分けておくほうが、あとから直すより楽です。
具体的な金額は、宿が特定されるため出していません。ただ、私たちは特別なシステムを買ったわけではなく、決まった手順をAIに持たせて、決まった時刻に動かしているだけです。いちばん小さい仕事ひとつから始めて、合わなければその日にやめられます。小さく試せることが、人を採用する場合との大きな違いです。