旅館・ホテルのレベニューマネジメント(値下げで勝てない立地で、元値を据え置き曜日と残室でクーポンを動かす)

元値を据え置き、空きやすい平日だけクーポンで料金を動かして予約を集めている長野の山あいの旅館の外観

宿のレベニューマネジメントというと、大手ホテルが日々の価格を上げ下げする手法を思い浮かべる方が多いかもしれません。立地で勝てない小さな宿が同じように元値を上下させると、安い宿として覚えられ、かえって選ばれなくなります。私たちは、元値を据え置いたまま、曜日と空室の状況に応じてクーポンで実質の料金を動かしています。長野と北海道で私たちが運営・支援している宿は、この方法で平日と閑散期の空きを減らしてきました。

旅館・ホテルのレベニューマネジメントは、元値を据え置いて曜日と残室でクーポンを動かす

レベニューマネジメントとは、需要の波に合わせて料金を動かし、売上を最大にする考え方です。大手ホテルは専用のシステムを使い、日々の価格を上げ下げしています。私たちの宿では、お客様に見せる元値を年間を通して変えず、空きやすい日だけクーポンでお得さを足しています。

1
去年の予約台帳を、曜日別と月別に数える。数えると、平日が弱いのか、特定の月が弱いのかが分かり、空きやすい日を感覚ではなく数字で決められます。
2
元値は、年間を通して据え置く。元値を下げると、元から安い宿に見えてしまい、クーポンを付けてもお得感が伝わらなくなります。
3
値引きの前に、公式LINEの友だちへの予告と広告で先に埋める。次の手順のクーポンは、公式LINEと広告で埋まらなかった日にだけ使う最後の一手です。自社集客で埋められる宿ほど、値引きを出す日が少なくて済みます。
4
それでも埋まらない日だけ、元値を見せたままクーポンで出す。値引きの幅は10〜15%にしています。お客様には元の値段が見えているので、宿が安くなった印象を残さずに、お得さを伝えられます。
5
土日や繁忙期は、下げない。料金を動かすのは空きやすい日だけで、放っておいても埋まる日まで下げると、売上を自分で削ることになります。

この順番にしているのは、値引きはどの宿でもすぐに真似できる一方で、一度下げた値段はなかなか戻せないからです。名簿と広告で先に埋めておけば、元値を守ったまま、弱い日にだけクーポンを使えます。

長野の松川館は、公式LINEの予告と広告とクーポンを組み合わせたこの方法で、平日の空きを埋めてきました。2026年10月の時点で、平日の稼働率は前の年の約2倍の、おおよそ70%です。支援先の北海道の宿でも、同じ考え方で料金を動かしています。予約サイト(OTA)の使い方まで含めた全体像は「旅館・ホテルのOTA運用の全体像」にまとめています。

レベニューマネジメントは、需要に合わせて料金を動かし売上を最大にする考え方

レベニューマネジメントとは、需要の波に合わせて料金と在庫を動かし、売上を最大にする考え方です。需要が高い日は料金を上げ、低い日は料金を下げて、空室をなるべく減らします。

もとは航空会社や大手ホテルで使われてきた手法です。航空会社は、同じ座席でも混む便を高く、空く便を安く売ります。ホテルも、混む日と空く日で部屋の値段を変え、全体の売上を伸ばしています。

大手は、この上げ下げを専用のシステムに任せ、予約の入り具合に応じて、日々の価格を人の手を介さずに細かく変えています。

ただ、小さな宿がこのやり方をそのまま真似るのは、次の三つの理由からおすすめしません。一つめは、需要の読みやすさが立地で変わることです。人気の観光地なら需要が安定しますが、観光地から離れた宿は、需要の波が読みづらくなります。

二つめは、元値を下げると安い宿として覚えられてしまうことです。知名度のある大手は値段が動いても信用が揺らぎませんが、小さな宿が大手のように値段を上下させると、安いときの印象だけが残ります。三つめは、専用システムは大がかりで、費用もかかることです。機能の多くが大きなホテル向けなので、小さな宿が入れても使い切れません。

そこで私たちは、小さな宿向けに、料金の上げ下げを「元値の据え置き」と「クーポン」に置き換えました。年間の元値は変えずに、空きやすい日だけ、クーポンで実質の料金を下げます。繁忙期に値上げをしない分、売上の伸ばし方は大手と違い、空きやすい日の空室を減らして年間の売上を積み上げる形になります。

松川館でも、最初に去年の予約を曜日別と月別に並べ直しました。それまで感覚で「平日が弱い」と思っていたことが、並べ直したことで数字ではっきりし、そこから平日向けの打ち手を一つずつ決めていきました。

立地で勝てない宿が元値を下げると、かえって選ばれなくなる

松川館では以前、安くすれば予約が入るだろうと考えて、予約サイトの値段を大きく下げたことがあります。ところが、予約はほとんど入りませんでした。

観光地から離れた宿は、安くしても選ばれにくくなります。予約サイトで宿を探す方は、まず行きたい地域を決め、その地域の宿のなかで値段や写真を見比べます。探している地域から外れた宿は、値段を見てもらう前に、候補から外れてしまいます。

安くしても、お客様が「少し高くても観光地に近い宿のほうがいい」と考えれば、総合評価で負けてしまいます。観光地にある宿なら、近くの宿と比べて安いときに「ここにしよう」と選ばれます。同じ地域の宿どうしで比べられるので、値段の差が予約につながります。

観光地から離れた宿は、値段を下げても選ばれる理由が増えず、安い宿という印象だけが残ります。

一度下げた値段は、元に戻すとお客様に「値上げした」と受け取られるので、簡単には戻せません。宿そのものが安く見られるようになると、その印象を立て直すのにも時間がかかります。

この経験から、私たちは元値を下げるやり方をやめました。立地で勝てない宿は、料理や過ごし方など、値段以外で選ばれる理由を先に作るほうがよいと考えています。料金は、元値を守ったままクーポンで動かします。

元値は据え置き、クーポンで実質の料金を動かす

元値を下げずに料金を動かすために、私たちはクーポンを使っています。小さな宿のレベニューマネジメントでは、このクーポンの使い方がいちばん大事な部分です。元値はそのままにして、クーポンの分だけ実質の値段を下げます。

やってはいけないのは、宿の元の値段そのものを下げることです。複数の予約サイトの在庫を1か所で管理する道具を、サイトコントローラーといいます。サイトコントローラーで元値を下げると、どの予約サイトでも元から安い宿に見えてしまい、お得感も伝わらなくなります。

クーポンなら、元の値段を見せたまま値引きできます。たとえば2万円のプランに1万8,000円で泊まれるクーポンを付けると、元の2万円が見えているので、2,000円お得だと一目で伝わります。同じ1万8,000円で泊まれる場合でも、元値を下げたときとクーポンで引いたときとでは、お客様の受け取り方が大きく変わります。

値引きの幅は10〜15%で、2万円のプランなら2,000〜3,000円の値引きにしています。この幅に収めているのは、大きく下げすぎると元値のほうが嘘に見えてしまうからです。半額のような値引きを付けると、お客様に元の2万円を信じてもらえなくなります。

クーポンには予約サイトの手数料がかかるので、費用だけを見れば、元値を下げるより損に思えるかもしれません。それでも私たちは、元値を見せたままお得さを伝えられる利点のほうが大きいと考えています。元値を守ったまま、クーポンを付けた日の予約だけを増やせるからです。

クーポンで予約を後押しできるのは、公式LINEや広告ですでに宿を知っている方や、その地域で宿を探している方が、予約を決める最後の場面です。宿の場所を見て候補から外した方を、クーポンで呼び戻すことはできません。そのため私たちは、クーポンを公式LINEと広告のあとに回し、空きやすい日にだけ使います。

サイトコントローラーの選び方は「小さな宿がサイトコントローラーを選ぶときの3つの基準」にまとめています。

料金を動かす日は、曜日と残室の二つで決める

クーポンを出す日は、曜日ごとの空きやすさと、その日の残室の二つを見て選びます。

最初に、去年の予約台帳を曜日別と月別に数えます。数えると、たとえば火曜から木曜が弱い、何月が弱いといった傾向が分かります。あわせて、連泊と一泊のどちらが多いか、直前の予約が多いかも見ておきましょう。こうした傾向が分かれば、どの日に手を打つかを決められます。

曜日と月の弱さが分かれば、プランの作り方も変わります。平日が弱いなら、平日向けのプランを一泊で作るか、連泊で作るかを決められます。直前の予約が多い宿なら、直前まで待っても埋まる日が多いので、早めにクーポンを出す必要はありません。感覚で料金を動かすと弱い日を見誤りやすいので、台帳の数字をもとに決めてください。

クーポンを出すのは、空きやすいと分かっている平日、閑散期と分かっている時期、数日先に迫っても埋まらない直前の空室の、三つの場合だけです。どの日も、元値は下げずにクーポンで値引きします。出す日をしぼるほど、値引きで減る売上は小さく済みます。

埋まる土日や繁忙期は、料金を据え置きます。小さな宿は、つい値下げばかりを考えがちですが、放っておいても埋まる日まで下げると、本来入るはずだった売上を自分で削ることになります。

大手は、繁忙期に値段を上げ、空く日に値段を下げます。私たちは、この上げ下げのうち下げる側だけを取り入れ、値段を下げる代わりに、元値を見せたままクーポンを出しています。繁忙期は、値段を上げずに据え置きます。料金を据え置く日と動かす日を分けることが、いちばんの要点です。

松川館でも、手を打つのは平日だけで、土日の料金は据え置いています。弱い日だけ料金を動かすことで、全体の売上を守りながら空きを減らしてきました。

残室が少ない日は、慌てて下げない

直前に空室が少し残っていると、つい焦ってクーポンを出したくなります。私たちはすぐには出さず、残りの日数と残室の両方を見て、本当に埋まらないと判断した日にだけ、最後にクーポンを出しています。

宿泊日まで数日あるなら、名簿や広告で埋まる見込みがあり、公式LINEで案内するだけで予約が入ることもあります。残室が一つ二つあっても、その日が人気の曜日なら、待てば予約が入ります。残り日数と残室を見比べて、埋まる見込みが薄い日を選んでください。

たとえば、三日後の空室が一室だけ残っている場合、その日が金曜なら、直前でも埋まりやすいのでまだ待ちます。火曜のような弱い曜日なら、待っても予約が入りにくいので、クーポンを出す判断に傾きます。

松川館の運用では、埋まらないと判断した日に出すクーポンの値引きを、10〜15%の幅のうち10%前後にしています。2万円のプランなら、元値の2万円を見せたまま、お客様は1万8,000円前後で泊まれます。

元値を見せたままのクーポンは、宿を「安い宿」に見せないための方法で、何度出しても困らないという意味ではありません。慌てて毎回のように直前値引きをすると、お客様が「この宿は直前に待てば安くなる」と覚えてしまい、早い時期の予約が減っていきます。

早く予約してくださった方が高く払い、ぎりぎりまで待った方が安く泊まる状態が続くと、早く決めてくださる方に申し訳が立ちません。そのため私たちは、直前値引きを、数日先まで埋まらないと判断した日に限り、習慣にはしていません。

値引きより先に、自社集客と名簿で埋める

空きを埋める本筋は、クーポンを出す前に、自社集客と既存の名簿で埋めることです。値引きは、空きを埋める手段のなかで最後に使います。

最初に案内を送る相手は、公式LINEの名簿に登録している方です。公式LINEは、宿のアカウントと友だちになった方へ直接お知らせを送れる仕組みで、一度泊まってくださった方とのつながりを残せます。新しいお客様を呼ぶより、一度来た方にもう一度来ていただくほうが、手間もお金もかかりません。

松川館の公式LINEには、約1.1万人の友だちがいます。この名簿に平日のプランや限定プランを出すときは、三日ほどかけて予告します。一日目は準備中とだけ伝え、二日目に出す時間を予告し、三日目にプランを出すと、出した時間に予約がまとまって入ります。いきなり出すより、予告してから出したほうが、反応は大きくなります。

名簿だけで埋まらない日は、広告で補います。広告は配信先を平日や近隣に絞れば、月10万円くらいの少額から始められます。まだ宿を知らない方に、空きやすい日のプランを案内しましょう。広告で来た方に公式LINEへ登録していただければ、次からは広告費をかけずに案内できます。

クーポンを出すのは、名簿と広告で案内しても空きが残った日だけです。公式LINEの友だちが増え、広告で予約を集められるようになるほど、クーポンを出す日は減り、値引きに頼らずに売上を守れます。

公式LINEと広告で集客しても、なお空きが残った日にだけクーポンを使う順番にすると、自社サイトからの予約の割合も上がっていきます。予約サイトに手数料を払う予約の割合が減るので、同じ予約数でも手元に残るお金が増えます。この割合の考え方は「ホテル・旅館の自社予約比率の考え方」にまとめています。

この作業を宿の中だけで続けるのが難しい場合は、外に任せる方法もあります。任せる範囲と宿に残す仕事は「旅館・ホテルの集客代行に任せる仕事と、宿に残す仕事」にまとめています。

松川館と北海道の宿で、料金を動かすときの順番

私たちの宿では、平日や閑散期が来るたびに、次の順番で料金を動かしています。毎回ゼロから考えずに、決まった手順をなぞるようにしています。

1
台帳で曜日別と月別に数える。去年の予約を並べ直し、空きやすい日を決めます。松川館では、平日が弱いことが数字ではっきりしました。
2
元値は据え置く。元から安い宿に見られないように、元の値段は年間を通して下げません。
3
値引きの前に、公式LINEの予告と広告で埋める。約1.1万人の名簿に三日かけて予告し、平日・近隣に絞った広告で先に埋めます。
4
それでも埋まらない日だけ、元値を見せたままクーポンで出す。幅は10〜15%で、2万円のプランなら、1万8,000円で泊まれるクーポンを付けます。
5
土日・繁忙期は下げない。埋まる日は料金を据え置き、空きやすい日だけを動かして、売上を守ります。

松川館は、この順番で、先に名簿と広告で平日を埋め、なお空きが残った日にだけクーポンを使ってきました。平日の稼働率は、前の年の約2倍の、おおよそ70%になっています。クーポンだけで上がった数字ではなく、台帳で弱い日を決め、公式LINEの予告と広告で先に埋め、残った日だけ料金を動かす、この順番全体で上げてきた数字です。

北海道の宿では、閑散期の秋に、鹿のジビエを「一番いい時期」の限定プランとして出しています。プランには「この時期の鹿がいちばん美味しい」という理由をそのまま書き、安さではなく、その時期にしか味わえない料理で選んでいただいています。このプランには、2026年10月の時点で、おおよそ1日1件ほどのペースで予約が入っています。閑散期をどう埋めるかの詳しい順番は、関連ページの記事にまとめています。

よくある三つの誤りは、元値の値下げ・埋まる日の値引き・直前値引きの習慣

料金の動かし方でよくある誤りは、次の三つです。1つ目は、私たちが松川館で実際に失敗したやり方です。2つ目と3つ目は、空室が続くと、ついやってしまう誤りです。

1
元の値段を下げて、安さで戦ってしまう。03の節で書いたとおり、松川館では予約サイトの値段を大きく下げても、予約はほとんど入りませんでした。元値を下げても選ばれる理由は増えず、安い宿という印象だけが残るので、私たちは元値を据え置いてクーポンで動かす方法に切り替えました。
2
埋まる日まで値引いてしまう。空室が気になると、土日や繁忙期まで下げたくなりますが、放っておいても埋まる日を下げると、本来入るはずの売上を自分で削ることになります。料金を動かすのは、空きやすい日だけです。
3
直前値引きを習慣にしてしまう。毎回ぎりぎりで下げると、お客様が「直前に待てば安くなる」と覚え、早い時期の予約が減っていきます。早く決めてくださる方ほど高く払うことになるので、直前値引きは、本当に埋まらないと判断した日だけに限ります。

高価な専用システムは要らず、台帳と手の判断で空きを減らす

小さな宿に、高価なレベニューマネジメントシステムは要りません。去年の予約台帳と、人の判断だけで料金を動かせます。私たちも専用のシステムは使わず、台帳で空きやすい日を数字で決めて、その日だけクーポンを出しています。

システムを入れると安心できるかもしれませんが、システムに料金を任せても、観光地から離れているという立地は変わりません。小さな宿で成果が出るのは、台帳で自分の宿の弱い日を知り、その日を一つずつ埋めていく作業です。難しい仕組みを入れるより、台帳を開く習慣を持つほうが役に立ちます。

この方法を続けても、満室になるわけではありません。08の節で書いた松川館でも、平日はいまも3割ほどが空いています。平日や閑散期は、泊まりたい方の数がそもそも少ない時期なので、どんなに手を打っても、空室はゼロにはなりません。

目標は満室ではなく、去年より空きを減らすことで十分です。私たちの宿でも、台帳で弱い日を見つけ、元値を守りながら空きやすい日だけ料金を動かすことを続けて、平日の予約を少しずつ増やしてきました。早く始めた宿ほど、翌年の平日と閑散期が楽になります。

よくある質問

ホテル・旅館のレベニューマネジメントとは何ですか。

需要の波に合わせて料金と在庫を動かし、売上を最大にする考え方で、もとは航空会社や大手ホテルの手法です。立地で勝てない小さな宿では、元値を上下させずに据え置き、曜日と空室の状況に応じてクーポンで実質の料金を動かす方法に置き換えます。

レベニューマネジメントシステムは、小さな宿にも必要ですか。

高価な専用システムは要りません。去年の予約台帳を曜日別と月別に数え、空きやすい日だけ、元値を見せたままクーポンで値引きすれば十分です。私たちも、台帳と人の判断で料金を動かしています。

元値を下げてはいけないのは、なぜですか。

観光地から離れた宿が元値を下げても、お客様は総合評価で、少し高くても観光地に近い宿を選びます。元値を下げても選ばれる理由は増えず、安い宿という印象だけが残ります。クーポンなら元の値段を見せたまま値引きできるので、お得さが伝わります。

いつ料金を動かせばいいですか。

料金を動かすのは、空きやすい平日、閑散期と分かっている時期、数日先で埋まらない直前の空室だけです。埋まる土日や繁忙期は、料金を据え置きます。埋まる日まで下げると、売上を自分で削ることになります。