宿泊業の人手不足を、
AIでどう補ったか

この記事は、人手不足に悩む旅館や宿の経営者に向けて書いています。私たちOne Ismは、創業140年の旅館を自社で運営しています。全9室の小さな宿で、限られた人手のまま数字を伸ばしてきました。この記事では、人手不足への向き合い方を実際の運用とあわせて公開します。

全9室の小さな宿・旅館の外観|宿泊業の人手不足をAIで補う運用の現場
FIELD — RYOKAN / JAPAN  ·  この旅館

先に結論。人手不足への向き合い方

細かい話に入る前に、結論からお伝えします。私たちが人手不足に対してやったのは、この向き合い方でした。

1
人手をAIで完全に代替はしない。少ない人手を前提に、AIに任せる部分を先に決めます。
2
情報発信・集客の運用・数字の見える化をAIに任せる。手間のかかる作業から切り離します。
3
接客と現場の判断は人に残す。むしろ、そこに集中できる時間を作ります。
4
結果として、人手を増やさずに数字を伸ばす。順番は最後ですが、これが目指す状態です。

この向き合い方のまま、この旅館の売上は前年同月比240%になりました。ここからは、具体的に何をやっているのかを、作業の手順・よくあるつまずき・実際の変化まで含めて書いていきます。

「AIに任せる」のではなく「AIに支えてもらう」という考え方

全9室の小さな宿を、限られた人手で運営しています。だからといって、仕事を丸ごとAIに渡すことはしていません。

私たちが大事にしているのは「人とAIがひとつのチームで動く」という考え方です。One Ismの一貫した方針でもあります。情報発信を担うAI、数字を管理するAIというように、機能ごとに役割を分けて運用しています。人間のスタッフに役割があるのと同じ考え方です。

この体制を自社の旅館で先に検証しているのには理由があります。私たちは2023年7月に設立した会社で、①自社で旅館を運営する→②その型を他の宿へ広げる→③地方の若者に挑戦の場をつくる→④宿から地域全体へ、という順番で事業を考えています。人手不足という、地方の宿がどこも抱えている課題を自社で先に乗り越えておかないと、他の宿へ広げられる型にはならないと考えたからです。この旅館は、その1軒目にあたります。

AIに任せるのは、情報発信や集客の運用、数字の見える化といった作業です。お客さまと直接向き合う部分は、人が担います。任せる部分と、任せない部分を先に線引きする。これが、人手不足への向き合い方の土台になっています。

AIが実際に担っている3つの作業

ここからは、AIに任せている作業を、実際の手順に沿って具体的に書きます。特別な技術の話ではありません。日々の運用そのものです。

1. 情報発信

季節の見どころや館内の様子など、発信するネタは現場にあります。ここの手順はこうです。まず、現場のスタッフが気づいたことを短くメモに残します。次に、AIがそのメモや季節の行事カレンダーをもとに、投稿の下書きを複数案つくります。そして、人が写真を選び、下書きの言い回しや事実関係を確認します。最後に、AIが決まった時間に予約投稿します。

人が担うのは「ネタの種を残すこと」と「公開前の最終確認」だけです。文章を一から書く時間、投稿する時間はAIに任せています。担当者が繁忙期で手が回らない日でも、発信が止まりません。この積み重ねで、SNSの総フォロワーは3万人を超えました。

2. 集客の運用

広告の数字を毎日追いかけるのは、地味ですが手間のかかる作業です。ここもAIが数字を確認し、状況をまとめます。具体的には、広告の消化・クリック・予約への転換といった数字を毎日自動で取得し、前日・前週と比べて大きくずれていないかをAIが確認します。CPA(1件あたりの獲得コスト)が急に上がった、消化のペースが極端に遅い、といった変化があれば、その日のうちに知らせが来る仕組みです。週に1回は、事実→言えること→次の一手、の順でレポートをAIがまとめます。人は、その報告をもとに予算や入稿内容を最終判断するだけで済みます。

この「AIが数字を整え、人が判断する」運用の型は、自社の旅館だけでなく他の支援先にも展開しています。くわしい数字は次の「成果」の章で紹介します。

3. 数字の見える化

広告・売上・アクセスの数字は、1枚のダッシュボードに自動で集まる仕組みにしました。予約の数字は、台帳を人が確認して同じ画面に並べています。数字を探し回る作業から、人手を切り離しています。

たとえば、この旅館の公式サイトのアクセス状況は、直近28日間でアクティブユーザー2,031人、新規ユーザー1,961人、検索クリック568回、表示回数6,023回、平均クリック率9.43%、平均掲載順位9.92位です。検索経由の流入が全体の約57%を占めています。こうした数字を毎回自分たちで手集計する必要はなく、ダッシュボードを開けば揃っている状態にしています。人がやるのは「増えたか減ったか」に気づくことと、気づいた変化に対してどう動くかを判断することだけです。

AIエージェントを使っているのは、日々の運用だけではありません。公式サイトの制作でも、同じ仕組みを使いました。くわしくは「AIエージェントでサイト制作した実録」に書いています。

よくあるつまずきと対処法

この運用にたどり着くまでに、私たちも何度かつまずいています。同じ人手不足の宿がこれから始める時に、避けられるつまずきを共有します。

1
発信のネタが枯渇し、投稿が止まる。AIに毎回ゼロからネタを考えさせようとすると、内容が似通ってきたり、更新が滞ったりします。対処法は、季節の行事・館内の定番の見どころ・仕入れの旬などを先にリスト化しておくことです。ネタの元をあらかじめ渡しておけば、AIはそこから下書きをつくるだけで済み、枯渇しません。
2
AIの下書きをそのまま出し、現場の温度感とずれる。空室状況や季節限定メニューの有無など、現場でないと分からない情報は、AIだけでは把握できません。事実確認を飛ばして公開すると、案内と実態がずれてしまいます。対処法は、公開前の人の最終確認を絶対に省略しないことです。ここだけは仕組み化せず、人の目を通す工程として固定しています。
3
数字を見るだけで満足し、判断につなげられない。ダッシュボードを整えても、眺めるだけで終わってしまうと意味がありません。対処法は、「増えた・減った」に対して次に何をするかを、あらかじめ決めておくことです。たとえばCPAが上がったら広告文言を見直す、検索クリック率が下がったらタイトルを見直す、というように、変化と対応をセットにしておきます。

Before/After。実際に変わったこと

AIに任せる前と後で、現場の時間の使い方がどう変わったかを、2つの作業で比べてみます。

Before
広告の数字は、人が週1回まとめて手集計していました。数字が出そろうのは週明けで、先週の傾向がようやく分かるのがそのタイミングでした。異常があっても、気づくのは数日遅れでした。
After
AIが毎日ダッシュボードを自動更新します。人は数字を見て判断するだけで済み、異常があればその日のうちに気づけます。判断できる回数が増えた分、広告の調整も細かく回せるようになりました。
Before
SNSの更新は、繁忙期になると担当者の手が回らず、2週間ほど止まってしまうことがありました。
After
AIが毎週、投稿の下書きを複数案用意します。担当者は確認・修正するだけで済むため、繁忙期でも更新が止まりません。この積み重ねで、SNSの総フォロワーは3万人を超えて増え続けています。

人にしかできないこと

作業をAIに任せた分、人の時間は空きます。その時間を、私たちは接客と現場の判断にあてています。

チェックインでのお出迎え、館内でのご案内、宿泊中の細やかな気配り。これらは、AIには代われません。

温泉やお料理の状態を見て、その日の判断をする。急な変化に現場で対応する。これも、人にしかできない仕事です。空室状況や当日の館内の様子といった、現場に立たないと分からない情報の最終確認も、人の役目として残しています。

AIが情報発信と数字の管理を支え、人が接客と判断に集中する。この役割分担が、全9室の宿を少ない人手で回せている理由です。

成果(人手を増やさずに)

この体制のまま、スタッフの人数を大きく増やすことなく、数字は伸びました。結果を正直に公開します。

情報発信を止めなかったこと。集客の運用を毎日回せたこと。数字を見ながら判断できたこと。この積み重ねが、次の数字につながっています。

売上・前年同月比
240%
前年同月の2.4倍に成長
最高月商
1,100万円
過去最高を記録
SNS総フォロワー
3万人超
情報発信を止めずに継続
自社事業 · この旅館(全9室) · 実際の運用データ

「AIが数字を整え、人が判断する」という同じ運用の型は、自社の旅館だけでなく、他の支援先でも成果につながっています。たとえば、月額広告費30万円で最高ROAS1,200%超を記録した例、広告費46万円で月商387万円を達成したスクール事業、北海道のホテルで1年で売上が約6倍になった例があります。業種は違っても、人がすべてを手で追わず、AIが整えた数字をもとに判断するという型そのものは変わりません。

今日からできる3ステップ

同じ人手不足を抱える宿が、明日から始めるとしたら。私たちがやってきた手順を、そのまま3ステップにまとめました。

1
1週間分、日々の作業を書き出す。1日分だけだと抜け漏れが出ます。曜日ごとに違う作業もあるため、最低でも1週間分、できれば繁忙期と閑散期の両方で書き出すと精度が上がります。
2
「お客さまと直接向き合う作業」に丸をつける。チェックイン対応、館内案内、接客中の気配り、現場での当日判断など。ここに丸がついた作業は、人に残す作業です。
3
丸がつかなかった作業のうち、一番時間を取られているものを1つだけ選び、AIに任せてみる。欲張って全部を一気に任せないことがコツです。私たちも、情報発信・集客の運用・数字の見える化の3つを、同時にではなく順番に仕組みにしてきました。

1つ任せて回るようになったら、次の1つに進む。この繰り返しで十分です。

よくある質問

AI導入にコストはかかりますか。

仕組みを整える初期の手間はかかります。ただし、大掛かりな設備投資が必須というわけではありません。私たちも、日々の運用の中で少しずつ仕組みを育ててきました。

専門知識がなくても始められますか。

専門知識は必須ではありません。私たちが大事にしたのは、任せる作業と任せない作業を先に決めることです。ここさえ決まれば、あとは仕組みで運用できます。

人を減らすためにAIを使っているのですか。

いいえ。人を減らすためではなく、限られた人手を接客と現場の判断にあてるために使っています。情報発信や数字の管理をAIが支える分、人は現場に集中できます。

AIに任せると接客の質は下がりませんか。

むしろ逆です。情報発信や数字の管理にかかっていた時間が空く分、接客に使える時間は増えます。お客さまと直接向き合う部分は、これまで通り人が担っています。

AIの下書きをそのまま出しても大丈夫ですか。

おすすめしません。特に空室状況や季節限定の内容など、現場でないと分からない事実は、公開前に必ず人が確認しています。ここを省略すると、案内と実態がずれてしまいます。

何から始めればよいですか。

まずは、日々の作業を書き出すことをおすすめします。そのうえで、人にしかできない作業と、任せられる作業を分けます。任せられる作業の中で一番時間を取られているものから、1つずつ仕組みにしていくのが現実的です。

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