経営判断が理念からブレていないか、
AIに確認させている話

会社が大きくなるほど、理念は言葉だけになりやすいと感じています。私たちOne Ismには、日々の意思決定や施策が理念からズレていないかを、AIに確認させる仕組みがあります。「志」「至誠」「円融自在」という価値観を具体的な問いに変え、人の気合いではなく仕組みでブレを見つけるという話です。

経営判断を理念に照らしてAIがチェックする仕組みのイメージ
TOPIC — 理念 × AI ガバナンス

先に結論。私たちがやっていること

結論から先にお伝えします。私たちが理念のブレを防ぐためにやっていることは、主に4つです。

1
理念を、具体的な問いの形に翻訳する。抽象的な言葉のままでは、AIも人も判断基準にできません。「志」「至誠」「円融自在」という価値観を、判断の場面で使える問いに落とし込んでいます。
2
判断の節目で、AIに理念との整合を確認させる。施策や提案、成果物を外に出す前に、必ず挟むステップにしています。
3
「儲かるか」だけでなく「公益性」や「弱い立場の人に逃げ道があるか」を機械的に問う。忙しいときほど、この問いは後回しになりがちです。
4
指摘は参考にする。最終判断は、いつも人間が行う。AIは気づく機会をつくる役割で、判断そのものは奪いません。

ここから先は、なぜこの仕組みが必要だったか、そして中身をどう作ったかを、実際の運用に沿ってお伝えします。

理念は、放っておくと薄まる

会社を立ち上げたときの理念は、たいてい強い言葉でできています。私たちの場合は「地方から、日本を再興する」というミッションです。2023年7月、資本金100万円で設立したばかりのころは、この言葉を毎日のように意識していました。

このミッションは、4つの柱で考えています。①自社で旅館を運営する、②その型を他の宿へ広げる、③地方の若者に挑戦の場をつくる、④宿から地域全体へ広げる、という順番です。理念は言葉だけでなく、いま自分たちがこの順番のどこに取り組んでいるかを示す地図でもあります。

ただ、仕事が増え、案件が増え、日々の意思決定の数が増えるほど、理念を意識する時間は減っていきます。目の前の締切や数字を優先するのは、自然なことです。誰か一人の怠慢ではなく、忙しさが理念を後回しにさせるのだと感じています。

さらに厄介なのは、理念からズレた判断ほど、その場では「効率がいい」「早い」と感じられることです。短期的には正しく見えるので、気づかないまま積み重なっていきます。

人間だけでこれを防ごうとすると、誰かが毎回「これは理念に沿っているか」と問い続ける必要があります。忙しい現場で、それを毎回言い出すのは、簡単なことではありません。だからこそ、その役割を仕組みに任せることにしました。

仕組みの中身。何を・いつ・どう確認するか

やっていることは、特別なシステムではありません。「何を」「いつ」「どう」の3点を決めて、それを繰り返しているだけです。まず「何を」確認するかを、具体的な問いにして持っています。

5つの確認の問い

私たちの採用基準でもある「志」「至誠」「円融自在」という3つの価値観を軸に、公益性と弱い立場の人への配慮を加えて、次の5つの問いに翻訳しています。

1
志に沿っているか。この判断は「地方から、日本を再興する」というミッション、4つの柱のどこかに向かっているか。目先の数字だけの判断になっていないか。
2
至誠に沿っているか。事実に基づいているか。誇張や机上の空論になっていないか。
3
円融自在に沿っているか。自分たちの都合だけを押し通していないか。関わる人にとっても納得できる形になっているか。
4
公益性があるか。自社の利益だけでなく、地域や顧客にとっても良いことか。
5
弱い立場の人に逃げ道があるか。判断によって不利益を受ける可能性がある人(顧客・スタッフ・取引先)に、逃げ道や相談できる余地が残っているか。

いつ・どう確認するか

いつ
施策の提案・重要な意思決定・世に出す成果物です。判断を実行する前、成果物を外に出す前の節目に挟みます。後からチェックするのではなく、動き出す前に確認するようにしています。
どう
上の5つの問いを、AIに機械的に問わせます。人間が忙しさで飛ばしがちなステップを、AIは飛ばしません。指摘があれば担当者が読み、対応するかどうかを判断し、「対応した」「あえて対応しなかった」のどちらかを記録に残します。

大事なのは、AIが「正解」を出すわけではないということです。AIが出すのは、あくまで気づきのきっかけです。判断するのは、いつも人間です。

実際に見つかったズレ

具体的な案件の中身には触れられませんが、一般化した形で、実際に見つかった例を3つ紹介します。

例1 スピード優先で、現場を確認しないまま進みかけたケース

早く形にしたいという気持ちから、現場の実情を確認せずに机上だけで施策を進めそうになったことがあります。この時、「円融自在に沿っているか」という問いから、AIが「実際の現場で確かめたのか」と指摘しました。結果として、一度立ち止まり、確認してから進める判断に変わりました。

例2 効果を強めたいあまり、表現が誇張に寄りかけたケース

成果を伝える文章で、事実より大きく見せたい気持ちが働くことは、誰にでもあります。「至誠に沿っているか」という問いから、AIが指摘し、事実に基づいた表現に直したことがあります。

Before
「これを使えば、必ず成果が出ます」というような、言い切りの誇張表現。
After
「私たちが実際に運用している中で、こうした変化がありました」という、事実に基づいた書き方。

例3 相手にとっての逃げ道を確認しないまま、条件を決めそうになったケース

契約や取り決めの条件を決める場面で、こちらの都合を優先した一方的な条件のまま進めそうになったことがあります。「弱い立場の人に逃げ道があるか」という問いから、AIが相手側の逃げ道や相談できる余地を確認するよう指摘し、条件を見直したことがあります。

どの例も、担当者が悪意を持っていたわけではありません。忙しさや、良かれと思った判断の中で、少しずつ理念からズレていく。そのズレを、早い段階で見つけられることに、この仕組みの意味があると感じています。

つまずきやすい3つの失敗パターン

この仕組みを運用する中で、私たち自身もつまずいた・気をつけている3つのパターンがあります。

1
基準があいまいなまま運用を始めてしまう。「誠実であれ」のような抽象的な言葉のままだと、AIも人も何を確認すればいいか分かりません。「事実に基づかない誇張表現がないか」というところまで、具体的な問いに落とし込む必要があります。
2
指摘を毎回スルーする癖がついてしまう。指摘に対して「対応した」「あえて対応しなかった」のどちらかを記録に残さないと、チェック自体がだんだん形だけのものになっていきます。
3
判断が終わったあとにチェックしてしまう。意思決定のあとに確認すると、もう覆せません。判断を実行する前、成果物を出す前のタイミングに、確認を固定することが大切です。

今日からできる3ステップ

ここまでの内容を、実際に自分の会社で試すとしたら、次の3ステップで始められます。

1
自社の理念を、3〜6個の具体的な問いに翻訳する。「志」「至誠」「円融自在」のような言葉を、そのまま判断基準にはできません。「この判断は目先の数字だけのためになっていないか」のように、実際の判断の場面で使える問いの形に変えます。
2
判断の節目を1つ決めて、そこにAIチェックを挟む。「成果物を外に出す前」「重要な契約の前」など、まずは1つの節目に絞って始めます。欲張って全部に入れようとすると、続きません。
3
指摘への対応を記録に残す運用を、まず1ヶ月続けてみる。指摘があったか、対応したかどうかをメモするだけで十分です。1ヶ月続けると、自社がどんな時に理念からズレやすいかの傾向が見えてきます。

この3ステップを回すだけでも、理念が言葉だけで終わることを防げます。

地方の小さな会社でも導入できる理由

こうした話をすると、大企業のガバナンス部門のような、大がかりな仕組みを想像されるかもしれません。ですが、私たちのように2023年7月設立、資本金100万円というごく小さな会社でも、これは無理なく導入できています。

理由は3つあります。1つ目は、専任の部署や高価なシステムが要らないことです。理念を言葉にし、確認する節目を決めるだけで始められます。

2つ目は、AIは疲れず、忘れず、忖度もしないことです。人間同士だと、立場や関係性から指摘しづらい場面があります。AIはその点で、機械的に同じ基準を当て続けられます。

3つ目は、むしろ少人数の会社ほど、この仕組みの価値が大きいことです。人数が少ないほど、一人の判断がそのまま会社の判断になります。理念からのズレが、すぐに外へ出てしまう規模だからこそ、早い段階で気づく仕組みが要ると考えています。

よくある質問

AIに何をチェックさせているのですか。

施策や重要な意思決定が、会社の理念や価値観に沿っているかどうかです。私たちの場合は「志」「至誠」「円融自在」という3つの価値観と、公益性・弱い立場の人への配慮まで含めた具体的な問いに翻訳して確認させています。数字の良し悪しではなく、理念との整合を機械的に問う役割です。

チェックの基準は、具体的にどんな言葉になっていますか。

「志に沿っているか」「至誠に沿っているか」「円融自在に沿っているか」「公益性があるか」「弱い立場の人に逃げ道があるか」という5つの問いにしています。抽象的な言葉のままだと確認できないので、判断の場面で使える具体的な問いの形に落とし込むことを大事にしています。

人間のチェックだけでは足りないのですか。

人間だけだと、忙しさに流されて理念の確認を後回しにしがちです。AIを判断の間に挟むことで、その確認を必ず行う仕組みにしています。

AIの指摘が的外れなことはありませんか。

あります。基準があいまいなままだと、AIの指摘も的外れになりやすいです。だからこそ、抽象的な言葉を具体的な問いまで落とし込むことを重視しています。それでも指摘はあくまで参考で、最終判断は人間が行います。

チェックで指摘された内容には、必ず従うのですか。

いいえ、従いません。最終判断は、いつも人間が行います。AIの役割は、気づく機会をつくることです。

導入に専門知識やシステムは必要ですか。

大がかりなシステムは必要ありません。理念とチェックの基準を言葉にし、判断の節目でAIに確認させる手順を決めるだけです。

どんな規模の会社でも導入できますか。

はい。私たちは2023年7月設立、資本金100万円という小さな会社ですが、無理なく導入し運用しています。人数の多さよりも、理念を具体的な言葉にできているかどうかが大切です。

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