少人数運営の宿が、
AIで補っていること・あえて補っていないこと

この記事は、少人数で宿を運営していて、どこまでAI・省人化を進めるべきか悩んでいる経営者に向けて書いています。私たちOne Ismは、創業140年・全9室の旅館を、少人数で運営しています。館内案内や清掃、調理補助といった現場の裏方業務に、AIがどこまで関わっているか。そして、あえて人がやり続けていることは何か。正直にお伝えします。

少人数運営の宿の現場|地方の旅館
FIELD — RYOKAN / JAPAN  ·  この旅館

先に結論。補っていること・補っていないこと

結論から先にお伝えします。私たちは、宿の業務すべてをAIに任せているわけではありません。補っている部分と、あえて人に残している部分を、はっきり分けています。

1
AIで補っていること:情報発信の下書きと数字管理。館内の様子の発信や、予約・売上の見える化といった事務作業です。
2
AIで補っていること:清掃・調理補助の手順整理。チェックリストや仕込みの段取りなど、作業の前後にある準備の部分です。
3
あえて補っていないこと:お出迎え・お見送り。お客さまと最初に向き合う瞬間、最後に見送る瞬間は、人が担っています。
4
あえて補っていないこと:館内での会話とご案内。お客さまの反応を見ながら話す内容を変える場面は、人にしかできないと考えています。

ここから先は、この線引きに至った理由と、実際にやっていることを、具体的に書いていきます。つまずいた失敗パターンと、今日から自分の宿で試せる手順もあわせてお伝えします。

なぜ、この線引きにしたか

私たちOne Ismは、2023年7月に資本金100万円で設立した会社です。代表の大橋祐哉を含め、地方の再興とAIマーケティングの支援を仕事にしています。事業の柱は4つあります。①自社で旅館を運営する、②そこで確立した型を他の宿へ広げる、③地方の若者に挑戦の場をつくる、④宿から地域全体へ広げる、という順番です。この記事で書いているのは、①の「自社で旅館を運営する」の中身そのものです。

私たちが運営している宿は、創業140年・全9室の旅館です。少人数で、館内案内から清掃、調理補助まで、幅広い業務を回しています。

人手が限られているからこそ、AIで省人化できる部分は、積極的に補いたいと考えました。ただ、その一方で、宿には「効率化しすぎると、失うもの」があるとも感じています。

宿の価値は、部屋やお料理だけでなく、お出迎えからお見送りまでの、人とのやり取りそのものにもあります。ここを機械的にしてしまうと、宿としての体験価値が下がると考えました。

そこで私たちは、業務を2つに分けました。繰り返しが多く、正解がはっきりしている裏方の事務作業はAIで補う。お客さまの反応を見ながら判断する接客の場面は、あえて人が担う。この線引きです。実際に自社で運営しているからこそ言えるのは、この線引きは机上の方針ではなく、日々の運用の中で数字を見ながら調整してきたものだということです。

補っていること(実際の運用ステップ)

ここからは、AIで補って実際によかったことを、業務ごとに書きます。特別な技術の話ではなく、日々の運用の中で積み重ねてきたことです。手順まで具体的にお伝えします。

情報発信:下書きは任せる、事実確認と言葉づかいは人が最後に見る

季節の見どころや館内の様子の発信は、下書きづくりをAIが担います。実際の流れは3ステップです。まず、その日撮った写真や出来事をAIに伝えます。次に、AIが投稿文の下書きを複数パターン作ります。最後に、事実に誤りがないか、宿としての言葉づかいに合っているかを人が確認して投稿します。

この運用を続けた結果、自社で運営する旅館のSNS総フォロワーは、3万人を超えました。下書きを人がゼロから書く時間がなくなった分、写真を撮る・お客さまと話す、といった現場の時間に充てられています。

数字管理:予約・広告のダッシュボードを自動化する

予約と広告の数字は、毎朝自動で1枚のダッシュボードに集まる仕組みにしています。人が見るのは「増えたか減ったか」だけです。理由の分析や打ち手の検討は、そこから先に踏み込む時だけ行います。

この仕組みで数字を見続けた結果、自社で運営する旅館は前年同月比240%まで売上が伸び、最高月商は1,100万円を記録しました。広告費は月額30万円で、最高ROASは1,200%を超えた月もあります。人手が少ないままでも、数字の変化に早く気づけたことが、この結果につながったと考えています。

清掃:チェックリストと順番の整理をAIに任せる

清掃そのものは、これまで通り人が行っています。AIが手伝っているのは、部屋タイプごとのチェックリストづくり、清掃の順番の組み立て、備品の在庫確認の3つです。具体的には、部屋の広さや設備の違いをAIに伝えると、抜け漏れのないチェック項目のたたき台ができます。それを現場の担当者が実際に使いながら微調整していく、という流れです。抜け漏れが減り、少人数でも確認の負担が軽くなりました。

調理補助:仕込みの段取りと発注・在庫確認をAIに任せる

お料理そのものは、もちろん人が作ります。AIが整理しているのは、仕込みのスケジュール、食材の発注リスト、在庫の確認といった、調理の前後にある事務作業です。予約数と献立をAIに伝えると、いつまでに何を仕込むか、何をいつ発注するかの段取り表ができます。準備にかかる時間が、以前より読みやすくなりました。

いずれも、作業そのものを置き換えたわけではありません。作業の前後にある「整理」の部分を、AIに任せたということです。整理に使っていた時間が浮いた分を、お客さまと向き合う時間に回す。これが、私たちの基本的な考え方です。

あえて人がやり続けていること

一方で、あえて人がやり続けていることもあります。効率だけを考えれば、もっと省ける部分かもしれません。それでも、人に残しています。

お出迎えとお見送りは、その代表です。お客さまの表情や荷物の様子を見て、声のかけ方を変える。ここは、決まった答えのない場面です。

館内のご案内も同じです。お客さまの反応を見ながら、話す内容の量や順番を変えています。同じ説明でも、相手によって伝え方は変わります。

清掃や調理補助の作業そのものも、人が手を動かしています。手順の整理はAIに任せても、実際に部屋を整え、お料理を仕上げる部分は、今のところ人の仕事です。

Before/After:案内文をそのまま読むのをやめた

館内のご案内をAIで多言語対応した当初、私たちは下書きの文章を、そのままスタッフに読んでもらう運用を試したことがあります。決まった言葉を、決まった順番で話す。それがBeforeの状態です。

結果は、お客さまとの会話が続きにくくなりました。用意された言葉をそのまま話すと、質問への返しが硬くなり、案内が一方通行になってしまったためです。

そこでAfterでは、AIが用意するのは「伝えるべき情報の骨子」までにしました。実際にどう話すか、どの順番で伝えるか、どの説明を省くかは、お客さまの表情や質問を見ながらスタッフが決める形に戻しています。同じ情報でも、話し方を人に戻しただけで、会話のやり取りが増えました。

効率化と、宿としての体験価値は、ときどき綱引きになります。私たちは、迷ったときほど「お客さまと直接向き合う場面かどうか」を基準に、人に残すかどうかを決めています。

よくあるつまずき・失敗パターン

ここまでの線引きにたどり着くまでに、私たちも何度か失敗しています。同じところでつまずかないよう、対処法とあわせて共有します。

1
AIの下書きを直さずそのまま投稿してしまう。下書きは筋が通っているぶん、そのまま出したくなります。ですが、それを続けると文章がテンプレート的になり、反応が鈍くなっていきました。対処法は、投稿前に必ず1か所、その日ならではの具体的なエピソードや会話を人が書き足すルールにすることです。
2
チェックリストを作って満足し、更新しない。清掃や仕込みのチェックリストは、作った直後は喜ばれますが、季節や部屋の状況が変わると、内容が現場と合わなくなります。対処法は、月1回、実際に手を動かしている担当者と一緒に見直す時間を、あらかじめ予定に入れておくことです。
3
接客のトークまで台本化しようとする。案内や声かけの内容を、AIに一言一句決めさせようとすると、かえって不自然になり、お客さまとの会話が続きにくくなりました。対処法は、AIに作らせるのは「伝えるべき情報の骨子」までにとどめ、話し方や間の取り方は人の判断に委ねることです。

今日からできる3ステップ

この線引きは、大きな投資をしなくても、今日から自分の宿で試せます。私たちが実際にたどった順番で、3ステップにまとめました。

1
業務を「裏方」と「接客」に紙に書き出して仕分ける。清掃・仕込み・発注・情報発信・数字の確認などは「裏方」。お出迎え・お見送り・館内のご案内・お客さまとの会話は「接客」です。繰り返しが多く正解がはっきりしているものは裏方、お客さまの反応を見ながら都度判断するものは接客、という基準で分けます。
2
裏方業務のうち、一番時間がかかっているものを1つだけAIに任せてみる。全部を一気に変える必要はありません。情報発信の下書き、チェックリストづくり、数字の集計のどれか1つに絞って、AIに任せてみます。まずは1つで、慣れてから広げるほうが失敗しにくいです。
3
接客の場面は変えず、1か月後に「向き合う時間」が増えたかを振り返る。接客のやり方はそのままにして、裏方の負担が減った分、お客さまと話す時間や、現場を見る時間が増えたかどうかを確認します。増えていれば、その線引きは合っています。減っていれば、任せた業務が接客に近すぎた可能性があります。

よくある質問

少人数運営の宿でも、AI・省人化はどこまで進めるべきですか。

すべてを省人化する必要はないと考えています。事務作業や数字管理など、繰り返しの多い裏方業務から進め、お客さまと直接向き合う場面は人に残す。この線引きを先に決めることをおすすめします。

清掃や調理補助も、AIに任せているのですか。

作業そのものは人が担っています。AIが補っているのは、手順の整理やチェックリストづくりなど、作業の前後にある準備の部分です。手を動かす作業自体は、今のところ人の仕事です。

館内のご案内をAIにさせることはないのですか。

案内文の下書きや多言語対応の準備はAIが行いますが、実際にお客さまをご案内する場面は人が担っています。お客さまの反応を見ながら話す内容を変える、そこに人が向き合う価値があると考えているためです。

AIが作った下書きは、そのまま使ってもいいですか。

おすすめしません。私たちも、下書きをそのまま投稿して文章がテンプレート的になり、反応が鈍くなった経験があります。投稿前に1か所、その日ならではの具体的なエピソードを人が書き足すだけで、印象は変わります。

人を減らすためにAIを取り入れているのですか。

いいえ。人を減らすためではなく、少ない人数のままでも裏方の負担を減らし、お客さまと向き合う時間を残すために取り入れています。省人化そのものが目的ではありません。

この線引きは、他の宿にもあてはまりますか。

宿ごとに事情は違うため、そのまま当てはまるとは限りません。ただ、裏方の事務作業とお客さまに向き合う接客を分けて考える、という順番自体は多くの宿で参考にしていただけると考えています。実際に、私たちが支援した北海道のホテルでは、同じ考え方を取り入れて1年で売上が約6倍になった例もあります。

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少人数運営の宿における、AI・省人化の線引きづくりのご相談を承っています。私たち自身が運営する宿での実感をもとに、御社の現場にあわせてお話しします。支援内容のくわしい説明は「旅館・宿の集客支援」のページをご覧ください。

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