旅館の廃業・事業承継を
考える前に(辺境の宿を再生した実例から)

後継者がいない。赤字が続いている。体力的にもう限界かもしれない。そう感じて、廃業を考えている旅館のオーナーへ向けて書いています。私たちOne Ismは、地方で廃業寸前だった創業140年の旅館を、自ら事業承継した当事者です。廃業を決める前に、何を検討できるのかを、実感としてお伝えします。

廃業寸前から事業承継で再生した創業140年の旅館 旅館の外観
FIELD — RYOKAN / JAPAN  ·  この旅館

先に結論。廃業を決める前にできること

いま苦しい状況にいる方に、長い前置きは要らないと思います。結論から先にお伝えします。廃業を決める前に、検討できることは主に6つです。順番に並べています。

1
現状を数字で棚卸しする。感覚ではなく、売上・稼働率・固定費・借入の残高を並べて見ます。ここが曖昧なままだと、どんな判断も後悔が残ります。
2
廃業と事業承継を、同じ土俵に乗せて比べる。廃業を最初から「唯一の結論」にせず、承継という選択肢と並べて検討する価値があります。比べる基準は本文で詳しくお伝えします。
3
「事業承継」という選択肢を確認する。親族に後継者がいなくても、外部への承継という道があります。私たちも、その形でこの旅館を引き継ぎました。
4
一人で抱え込まず、早い段階で外に話す。顧問税理士、金融機関、支援機関、私たちのような支援者。誰でも構いません。早めに話す相手を持つことをおすすめします。
5
承継するなら、集客を立て直す具体的な順番を持つ。引き継いだだけでは、数字は動きません。何から手をつけるかの順番が要ります。実際にやった順番は本文でお伝えします。
6
承継は「リスクを引き受ける人」がいて初めて成立すると理解する。私たちにとっても、簡単な決断ではありませんでした。ここは正直にお伝えします。

ここから先は、私たちが一つの旅館と向き合った、実際の記録です。うまくいった話だけでなく、正直に苦労した部分も書きます。

「廃業しかない」と思っていた入口

日本各地の旅館では、後継者不在や体力的な限界を理由に、廃業を選ぶケースが増えています。これは、一つの宿だけの問題ではなく、業界全体が抱える課題です。私たちが実際に見聞きした範囲でも、廃業を考え始めるきっかけには、いくつか共通するサインがあります。

1
後継者不在。子や親族に継ぐ意思がない、または継げる状況にない。
2
稼働率の低下。以前は埋まっていた繁忙期でも、空室が目立つようになる。
3
赤字の継続。売上より固定費(人件費・光熱費・借入の返済)が上回る月が続く。
4
体力的な限界。経営者自身、あるいは現場を支えてきた人の年齢や体力が追いつかなくなる。
5
設備の老朽化。館内・温泉・水回りの大規模修繕が必要になり、投資の判断がつかなくなる。

私たちが出会ったこの旅館も、こうしたサインが重なった状態にありました。地方の温泉地にある、創業140年、全9室の旅館です。私たちが関わり始めた時点で、この旅館は廃業寸前の状態でした。

ここで、経営の詳しい経緯には触れません。踏み込みすぎることは、誠実ではないと考えているからです。お伝えしたいのは、そこからどう考え、何をしたかという部分です。

最初にやったことは、感情で判断する前に、現状を数字で棚卸しすることでした。予約の状況、直近の売上、固定費の内訳を並べて見る。特別なことではありません。ただ、この棚卸しをしないまま「もう無理だ」と結論を出してしまう旅館は、実は少なくないと感じています。

その村は、人口およそ6,000人です。国立公園の中にあり、古くからの温泉地を抱えています。決して大きな観光地ではありません。私たちは、こうした「辺境」と呼ばれる場所でも、宿は再生できると考えました。

廃業と事業承継、分かれ道の判断基準

廃業と事業承継、どちらを選ぶべきかに、絶対の正解はありません。ただ、判断の材料になる基準は、いくつかに整理できます。私たちが実際に見た基準を挙げます。

1
建物・設備は今後何年使えるか。大規模修繕が必要な場合、その費用を誰が負担するかで判断が変わります。
2
借入・保証の状況。承継後も返済が残るのか、清算という形で整理されるのかで、引き継ぐ側の負担が大きく変わります。
3
従業員・地域との関係。働き続けたい人がいるか、地域とのつながりを残したい事情があるかは、承継を後押しする要因になります。
4
引き継ぐ意思のある個人・法人が実在するか。親族でなくても構いません。ただ、実在しなければ承継は成立しません。
5
経営者自身の体力・意欲。廃業を選ぶこと自体は、逃げではありません。無理を重ねて続けることのほうが、誠実でない場合もあります。

私たちの場合、建物と温泉、地域とのつながりに価値を感じました。そして、引き継ぐ意思と体力が私たち側にありました。だからこそ、廃業ではなく事業承継という選択をしました。

何を検討したか。事業承継という選択

廃業寸前の旅館に対して、私たちが検討したのは「事業承継」という選択肢でした。買い取って終わり、ではありません。自社で運営を引き継ぎ、経営そのものを担うという判断です。

正直に言うと、簡単な決断ではありませんでした。旅館業は、広告やWebの仕事とは違います。建物があり、お湯があり、地域との関わりがあり、簡単には後戻りできません。リスクを引き受ける覚悟が要ります。

私たちOne Ismは、2023年7月に設立した、資本金100万円の会社です。代表は大橋祐哉。地方創生とAIマーケティングの支援を仕事にしてきました。ただ、支援する側に立ち続けるだけでは、証明できないことがあると考えました。「地方から、日本を再興する」。それが、私たちのミッションです。

辺境と呼ばれる場所でも、宿は勝てる。それを、まず自分たちの手で証明する。それが、この旅館を事業承継した理由です。他の宿へこの型を広げていくためにも、自分たちが最初の実例になる必要がありました。

事業承継の進め方。実際にやった順番

「事業承継」と一言で言っても、やることは多岐にわたります。私たちが実際にたどった順番を、なるべく具体的にお伝えします。

1
現状を数字で棚卸しする。売上・稼働率・固定費・借入の残高、設備や許認可(旅館業の営業許可など)の状態を、まず一覧にします。ここを飛ばすと、後のすべての判断が狂います。
2
引き継ぐ形を決める。株式を引き継ぐのか、事業だけを引き継ぐのか。専門家(税理士・弁護士など)に相談しながら、契約の形を整理します。私たちは、事業を引き継ぐ形を選びました。
3
集客の土台をゼロから作り直す。引き継いだ時点の集客のやり方を、そのまま続けても数字は変わりません。広告・SNS・公式LINEなど、複数の集客の柱を作り直しました。
4
数字を毎週見る仕組みを作る。稼働率・予約数・広告の効果を、ダッシュボードのような形で毎週見られるようにします。感覚ではなく、数字で判断できる状態を先に作ります。
5
効果が出た施策を、他の宿・他の事業にも広げる。一つの宿で通用した型は、他の場所でも通用するかを試します。

私たちには、4つの柱からなるビジョンがあります。①自社で旅館を運営する、②その型を他の宿へ広げる、③地方の若者に挑戦の場をつくる、④宿から地域全体へ広げる、という順番です。この旅館の事業承継は、その最初の一歩でした。

何をやって、どう変わったか

事業承継してからやったことは、特別な奇策ではありません。広告とSNSで自社集客の柱を作り、公式LINEでリピーターとのつながりを残し、数字が見える状態を整えました。地道な積み重ねです。

承継した直後の状態と、積み重ねた後の状態を比べると、変化がはっきり分かります。承継直後は、稼働率が低迷し、広告費をかけても反応が薄い時期が続きました。そこから、集客の柱を複数持つ体制に切り替え、数字を毎週見る運用に変えたところ、次の結果につながりました。

売上・前年同月比
240%
前年同月の2.4倍に成長
最高月商
1,100万円
過去最高を記録
SNS総フォロワー
3万人超
Instagram・X等の合計
自社事業 · この旅館 · 実際の運用データ

広告費は月額30万円で、ROASは最高1,200%超を記録しました。廃業寸前だった宿でも、正しい順番で手を打てば、数字は動きます。これは、私たちにとって希望でもあります。

この「型」は、この旅館だけのものではありません。私たちが同じ考え方で関わった他の事業でも、近い結果が出ています。

1
北海道のホテル。1年で売上が約6倍になりました。旅館・宿泊業という点では、この旅館と同じ業態です。
2
あるスクール事業。広告費46万円で、月商387万円を達成しました。業態は違いますが、集客の柱を複数持ち、数字を毎週見るという型は共通しています。

くわしい取り組みの中身は、関連記事「旅館の集客方法まとめ」に書いています。この記事では、集客の手順ではなく、廃業か承継かという入口の話に絞ります。

事業承継でつまずきやすい3つの落とし穴

私たちが実際に経験した、あるいは近くで見てきた、事業承継でつまずきやすいポイントを3つ共有します。合わせて、私たちが取った対処法も書きます。

1
現状把握を飛ばして、勢いだけで踏み切ってしまう。「なんとかなる」という気持ちだけで引き継ぐと、承継後に想定外の固定費や修繕費が見つかり、資金繰りに詰まります。対処法は、引き継ぐ前に必ず数字を棚卸しすることです。ここを飛ばさないだけで、後の判断がずいぶん変わります。
2
集客を「今までのやり方の延長」でしか考えない。旧オーナーの人脈や、これまでのOTA(予約サイト)頼みの集客をそのまま続けると、承継しても数字は変わりません。対処法は、広告・SNS・公式LINEなど、複数の集客の柱を承継直後から作り直すことです。私たちは広告費月30万円で最高ROAS1,200%超を記録しましたが、これは頼る先を一つに絞らなかった結果です。
3
承継後、数字を追う仕組みを作らないまま走ってしまう。日々の現場対応に追われ、稼働率や広告の効果を振り返る時間を後回しにしてしまうケースです。対処法は、承継した最初の週から、数字を見る仕組み(週次のチェック)を作ってしまうことです。動きが見えない時期でも、見える化を続けたことが、後の240%につながったと感じています。

これから同じ状況にいる方へ

ここまで、うまくいった話を中心に書きました。ただ、正直に言うと、承継した直後から順調だったわけではありません。

【正直な話】数字が動くまで、時間がかかった

事業承継したからといって、すぐに売上が上向くわけではありませんでした。何から手をつけるべきか整理するだけでも、時間がかかりました。今日いいと思ってやったことが、翌週には違う課題に変わっている。そんな日々が続きました。

それでも、数字を毎週見る習慣だけは崩しませんでした。動きが見えない時期でも、見える化を続けたことが、後の240%につながったと感じています。

廃業と承継、どちらも「重い決断」だということ

廃業は、決して逃げではありません。長く続けてきた宿を、次の世代に負担を残さない形で終える。それも、誠実な選択の一つです。

ただ、廃業を決める前に、事業承継という選択肢を一度でも検討したかどうかは、後になって大きな違いになると思います。私たちは、検討した先に、宿を残すことができました。

もし、いま同じような状況にいるなら、どちらを選ぶにしても、一人で抱え込まないでほしいと思います。私たちは、廃業寸前の旅館を実際に引き継いだ側として、お話しできることがあります。

よくある質問

事業承継の相談だけでもいいですか。

はい、大丈夫です。承継するかどうかを決めていない段階のご相談も承っています。私たち自身、承継の前に多くのことを検討しました。まずは現状をお聞かせください。

廃業を決める前に何を検討すべきですか。

感情で決める前に、まず現状を数字で棚卸しすることをおすすめします。そのうえで、事業承継という選択肢があるかどうかを確認します。廃業と承継は、両方とも重い決断です。比べたうえで選ぶ価値があります。

後継者がいない場合はどうすればいいですか。

後継者不在は、多くの旅館が抱える課題です。親族に限らず、外部への事業承継という選択肢もあります。私たちも、そうした形でこの旅館を引き継ぎました。まずは可能性があるかどうかを一緒に確認します。

赤字が続いている旅館でも相談できますか。

はい、相談いただけます。赤字であること自体は、珍しいことではありません。大切なのは、赤字の理由が何かです。理由によっては、立て直せる場合もあります。まずは数字を見せてください。

相談すると、何かを強制されますか。

いいえ、強制はしません。相談したうえで、廃業を選ばれても構いません。私たちがお伝えできるのは、選択肢と、当事者としての実感だけです。決めるのは、いつもオーナーご自身です。

事業承継には、どれくらい時間がかかりますか。

ケースによって差がありますが、現状の棚卸しから、集客の土台を作り直すところまで含めると、数ヶ月単位で考えていただくのが実感に近いです。契約の手続きだけで済む話ではなく、承継後の運用まで含めて「承継」だと考えています。

廃業と事業承継、どちらが費用を抑えられますか。

一概には言えません。廃業には廃業の費用(原状回復や清算の手続きなど)がかかりますし、承継には承継の費用(引き継ぎや集客の立て直し)がかかります。金額の比較だけでなく、どちらが後悔の少ない選択かも合わせて考える価値があります。

無料相談はこちら

廃業を考える前の事業承継のご相談、現状の棚卸しのご相談を承っています。私たち自身が事業承継の当事者として、実感をもとにお話しします。支援内容のくわしい説明は「旅館・宿の集客支援」のページをご覧ください。

ご相談は無料です。1営業日以内にご返信します。無理な営業はしません。

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