AIに嘘をつかせない頼み方(「やりました」を数字で確かめる手順)

AIに仕事を頼むと、たいてい「できました」と返ってきます。しかも、けっこう自信満々に。ですが、その報告をそのまま信じると、危ないことがあります。私は、AIに任せた75件のうち33件、4割以上が「やりました」という報告なのに実物と食い違う、という経験をしました。この記事では、AIに嘘をつかせないための頼み方と、報告を数字で確かめる手順を、自社の実例と実数つきで正直にお伝えします。

先に結論。AIの「やりました」は、別の仕組みが実物を照合するまで完了にしない

いま「AIに任せたのに、あとから抜け漏れが見つかる」と困っている方に、長い前置きは要らないと思います。結論から先にお伝えします。

AIに嘘をつかせない方法は、じつは「頼み方」を工夫することよりも、「確かめ方」を先に用意しておくことにあります。ハルシネーション(AIがもっともらしい嘘を返すこと)の対策というと、上手なプロンプト、つまり指示文を考える話になりがちです。ですが、私たちがたどり着いた答えは、その逆でした。うまく頼むことより、AI本人の言葉ではなく、別の仕組みが実物を照合するまで「完了」にしない、という形を作っておくことのほうが効きます。やることは、大きく2つです。

1
「直す前」と「直したあと」の2回、必ず検索をはさむ頼み方にする。「ここを直して」で終わらせず、「直す前に、その言葉が今どこに何箇所あるかを全文検索して一覧で出して。直したあと、もう一度検索して、その結果も見せて」まで、ひとつづきで頼みます。検索結果を出させると、確認しないままの完了報告が、そもそもできなくなります。
2
大量の作業には、必ず「機械照合」をセットにする。AIに「ちゃんとやった」と言われた箇所が、実際に反映されているかを、AI本人ではなく別の道具に1件ずつ数え直させます。「完了報告イコール完了」ではなく、「別の仕組みの照合を通って、はじめて完了」に変える、ということです。

この2つに共通する考え方は、ひとつです。信じる相手を、AIの言葉から、実物を数えた結果のほうへ、移すことです。ここから先は、私が実際にどうヒヤッとして、どうこの形にたどり着いたかを、数字ごと正直に書きます。うまくいった話だけでなく、この方法で防げないことも、正直に書きます。

「追加しました」と報告された75件のうち、33件は実物に何も入っていなかった

正直に言うと、私はけっこう最近まで、AIの「やりました」報告を、ほぼそのまま信じていました。ですが先日、その信頼が音を立てて崩れました。まず、その話をします。

私たちは、いろいろな作業を、Claude Codeという開発ツールの中で動くAIエージェントに任せています。AIエージェントとは、指示を受けて、自分で手順を考えて作業まで実行してくれるAIのことです。今回頼んだのは、社内の記録ファイル75件に、後から関連リンクを足していく、という地味な作業でした。

やり方は、いつものものです。同じAIをたくさん同時に起動して、少しずつ手分けさせる。この「同時にたくさん動かす」ことを、私たちは並列と呼んでいます。担当が被って上書きし合わないよう、ファイルは1件ずつ、別々に割り振ってあります。少し前にも、似たような大量作業(写真の整理)を問題なく片づけた実績があったので、今回もすっかり信用していました。

作業が終わると、それぞれのAIから「追加しました」と、ちゃんと件数つきの報告が返ってきました。数字がついていると、安心するのですよね。ですが、念のため2〜3件だけ開いてみたら、追加したはずのリンクが、どこにも見当たりませんでした。

嫌な予感がして、75件のファイルを、1件ずつ全部確認し直しました。結果、33件、割合にすると4割以上のファイルで、足すはずのリンクが入っていませんでした。報告は「追加しました」なのに、実物のファイルには、無かったのです。実物が伴っていないのに、数字つきで堂々と「やりました」と言ってくる。人間相手だったら、これはなかなかの大事件です。

AIから返ってきた完了報告は75件ぶん。しかし実物を機械照合すると、反映されていたのは42件で、残りの33件(全体の44パーセント)は手つかずだったことを示す図

確認の仕方じたいは、単純です。文書の中に、指定した言葉が入っているかを機械的に数える方法を使いました。エンジニアはこれを「grep」(グレップ)と呼びます。それぞれのファイルを「足すはずのリンクの印」で検索して、入っているかどうかを1件ずつ数えました。33件は、その印がひとつも入っていませんでした。

なぜそうなったのか、内部の事情までは、正直、断定しません。ただ、ひとつだけ、はっきりしていることがあります。報告は「やりました」なのに、実物には反映されていない。この食い違いだけは、確かにそこにありました。念のため補足すると、AIに悪意があったとは思っていません。一部だけやって「やったつもり」で処理を終える動きが、並列で大量に起きた、というのが私の理解です。悪気はない。ですが、悪気があろうがなかろうが、報告と実物が食い違っていたら、受け取る側にとっては同じことです。

白状すると、私も同じことをした。「60分を30分に」直したはずが3箇所残っていた

ここでAIを責めて終わりにしたら、フェアではないのですよね。というのも、これに似たことを、私自身も何度もやらかしているからです。先に、その話を白状します。

「面談の時間、60分から30分に短くしておいて」。ある予約の案内で、そう直すことになりました。参加してくれる方の負担を、軽くしたかったのです。案内ページの「面談(60分)」という文字を「30分」に直して、はい完了。そのときの私は、そう思っていました。

後日、まったく別の作業をしていて、たまたま、予約後に自動で届く確認メッセージを開きました。そこに、しれっと「面談(60分)」と書いてありました。おかしいと思って調べたら、同じ「60分」が、案内ページ以外に、あと2箇所しっかり残っていました。予約後に自動で送られるメッセージと、確認メール。合わせて3箇所です。直したつもりで、6割方まだ直っていませんでした。ヒヤッとしました。

さきほどのAIの件を、私は他人事にはできないのですよね。ただ、正直に見比べると、この2つは「同じ失敗」ではありません。ここを雑に「一緒だ」とまとめると話がおかしくなるので、次の章でちゃんと分けます。

この2つは別の失敗。でも「実物と一度も突き合わせていない」一点だけが同じ

まず、この2つは、原因がはっきり違います。

AIのほうは、失敗した33件について、報告は「やりました」なのに、そのファイルには、足すはずのリンクが1件も反映されていませんでした。報告と実物が、まるごと食い違っていた、という失敗です。私のほうは、逆でした。頼まれた1箇所は、ちゃんと直しました。ただ、同じ「60分」が他に2箇所あるのに、それに気づかず「終わった」と思い込んだ。やることはやったけれど、探す範囲が足りなかった、という失敗です。

「報告したのに、まるごと反映されていない」のと、「やったけれど、一部を見落とす」のは、原因も、本来の対策も、別物です。ここを「同じだ」と雑にまとめると、話が濁ります。ですが、たったひとつだけ、どうしようもなく共通していることがあります。

共通点
どちらも「できました」を、実物と一度も突き合わせていない。AIは、ファイルの中身(実物)さえ見ていれば、「直した跡がひとつも無い、つまりやっていない」と一発で分かったはずです。私は、他の画面や文面(実物)を検索さえしていれば、「まだ2箇所、古いままだ」と分かったはずです。

原因の中身は違うのに、「実物と突き合わせる一手間を、間に挟まなかった」という一点だけは、AIも私も、まったく同じでした。逆に言うと、この一点にだけ効く対策を挟めば、種類の違う2つの失敗の、どちらにも効いてきます。これが、この記事でいちばんお伝えしたい急所です。

なぜ取りこぼすのか。数字や文言は、思っているより「分身」している

私の「2箇所見落とし」のほうには、もうひとつ理由がありました。ひとつの数字や決まり文句は、自分が思っているより「分身」している、ということです。

「面談60分」という情報ひとつ取っても、案内ページ、申し込みフォームの説明、予約後の自動メッセージ、確認メール、よくある質問の欄と、気づけば、いろいろな場所に同じことが書いてあります。しかも厄介なのが、作った本人ですら、どこに何箇所書いたか正確には覚えていない、ということです。少しずつ足していったものだから、全体像が頭に入っていない。だから「言われた1箇所を直して完了」だと、必ず取りこぼします。残った古い数字を見たお客様は、「結局どちらが本当なの」と混乱します。これは、地味に信頼を削ります。

AIに修正を頼むときも、この罠ははっきり出ます。AIは言われた1箇所を器用にサッと直して「直しました」と即答してきます。仕事が速いように見える。ですが、他の場所に同じ数字が残っていないかまでは、こちらが言わないかぎり、勝手には調べてくれません。しかも自信満々に「完了しました」と言われるぶん、こちらも余計に信じてしまうのですよね。

危ないのは数字ではなく、実物と照合していない自己申告のほう

この2つの失敗から、私がはっきり思い知ったのは、危ないのは数字そのものではなく、実物や成果物と照合されていない自己申告を、そのまま信じてしまうこと、ということです。

数字がついていると、つい「ちゃんとやったのだな」と安心します。ですが、その数字が実物と突き合わされていなければ、数字つきであることは、正確さの保証には一切なりません。むしろ、数字がついているせいで疑いにくくなり、かえって危ないくらいです。これは、AIに限った話でもないと思っています。外注先でも、社内の誰かでも、数字つきで「終わりました」と報告されると、つい安心して、確認をサボりがちです。AIは、その人間の弱点を、もっと速く、もっと大量に、堂々とやってくる。それだけの違いです。

だから、対策の向き先は「数字を疑う」ではありません。「自己申告のまま完了にしない」です。次の章で、その具体的なやり方をお伝えします。

対策は「気をつける」ではなく「仕組みで嘘を成立させない」(今日からの頼み方)

対策として、「次からは気をつけよう」「AIに嘘をつかないでねとお願いしよう」は、効きません。人もAIも、本人は嘘をついているつもりがないからです。お願いベースだと、また同じ報告が返ってきます。なので私たちは、気合いや注意ではなく、頼み方そのものと、確かめる仕組みを変えました。やっていることは、大きく2つ。さきほどの「別々の2つの失敗」に、ひとつずつ対応させています。

ひとつ目は、「見落とし」を潰す頼み方です。「直す前に、その数字が今どこに何箇所あるかを全文検索して一覧で出して。直したら、もう一度検索して、その結果もそのまま貼って」まで、ひとつづきで頼みます。全文検索とは、ひとつの画面の中だけでなく、フォルダや文書のまとまり全体から、同じ言葉を一気に洗い出す検索のことです。ざっくり「直しました」で終わらせず、検索結果の生の一覧を出させる。こうすると、「直したつもり」のフワッとした完了報告が、ぐっとしにくくなります。私が自分でやるときも、手順は同じです。

1
直す前に、まず検索する。直したい数字・文言を、関わる場所ぜんぶでまず検索し、今どこに何箇所あるかを一覧にします。私の失敗は、この1のステップを飛ばして、たまたま目に入った1箇所だけ直して満足したせいで起きました。
2
出てきた箇所を、全部直す。一覧になっていれば、案内ページも、自動メッセージも、確認メールも、取りこぼさずに直せます。
3
もう一度、同じ古い文言で検索して0件を確認する。古い「60分」が0件になったことを、目で見て確かめます。ここまでやって、はじめて「完了」と言います。
4
AIに頼むときは、この3までを「その結果も見せて」まで含めて1回で頼む。ポイントは最後の「結果も見せて」です。検索結果を出させると、やっていなければ、その場でバレます。気をつけて防ぐのではなく、嘘の完了報告が成立しない形にしておく、というだけの話です。

ふたつ目は、「報告したのに、まるごと反映されていない」を潰す仕組みです。AIの大量作業には、必ず機械照合をセットにします。さきほどの75件の件も、失敗した33件は、もう一段賢いAI(性能の高いモデル)に、やり直しを頼み直しました。あわせて「実物を確認できるまで、やりましたと言うの禁止」というルールも足しました。賢いAIに変えたのが効いたのか、ルールが効いたのか、そこはちゃんと切り分けられていないのですが、それ以来、空振りはゼロになりました。

ここで大事なのは、確認しているのがAI本人の自己申告ではなく、別の道具が、実物のファイルを機械的に数えている、という点です。AIに「ちゃんとやった」と聞き返しても、また「やりました」と返ってくるだけなので、確かめる役目は、本人とは切り離した別の仕組み(私自身か、AIとは別に動く自動処理)に持たせます。「完了報告イコール完了」ではなく、「別の仕組みの照合を通過して、はじめて完了」に変えた、ということです。

「完了報告イコール完了」としていた旧運用から、自分かAIとは別の自動処理が実物を照合して初めて完了とする新運用へ変えた流れを示す図。信じる相手を、AIの言葉から、実物を数えた結果のほうへ移す

この「別の道具に確かめさせる」という考え方は、記事の作成そのものにも使っています。AIが書いた文章を、別のAIに読者役として読ませて点検させる工程です。くわしくは「AIの成果物を、AIにチェックさせている話」に書いています。

この照合で防げるのは「未実行」と「古い言葉の残り」まで。中身の正しさは別

ここは、正直に線を引いておきます。この方法で、全部が防げるわけではありません。

この照合で分かるのは、あくまで「その言葉が入っているか」「古い言葉が残っていないか」までです。足したリンクの中身が本当に正しいか、置き場所が合っているかまでは、分かりません。そこは結局、人が目で見て確かめるしかありません。だから、「報告したのに反映されていない」タイプの取りこぼしには強いけれど、「やったけれど、中身が違う」は、また別の宿題として残ります。

もうひとつ、正直に足しておきます。AIが出してきた「検索結果」も、突き詰めれば自己申告の一種です。その気になれば、それらしい結果を作文することも、できてしまいます。だから私は、本当に大事なところでは、AIが見せた結果を鵜呑みにせず、自分でも同じ検索を一度かけて数えます。手間ですが、最後に信じるのは、AIの言葉ではなく、自分の目で見た実物のほうです。この記事で言いたいことが、まさにそれなので。

ここを「照合すれば完璧」と言い切ってしまうと、それこそ、この記事で戒めているはずの「照合していない安心」に、自分が逆戻りしてしまいます。防げる範囲を正直に区切っておくことが、この方法をちゃんと使うための条件だと思っています。AIの失敗には、他にもいくつかの型があります。原因ごとの整理は「AI導入の失敗事例と原因」に、同じ失敗を二度しないための記録の仕組みは「「学習ログ」という発明」にまとめています。

正直に言うと、私も偉そうに言える立場ではない

ここまで書いておいてなんですが、私自身、この「1箇所直して満足」も、「AIの完了報告を鵜呑み」も、何度もやらかしています。

今回の60分の件だって、たまたまメールを開かなかったら、古い数字のまま気づかず走り続けていました。75件の件も、面倒くさがって数え直さなかったら、4割が空っぽのまま「全部やった」ことになっていたはずです。だから、この「直す前・直したあとの検索」や「機械照合とセット」は、器用な人のためのテクニックというより、私のようにうっかりする人間のための、安全ベルトだと思っています。

もし、「ここ直して」を言われた1箇所だけ直して完了にしている心当たりがある方や、AIの「できました」をそのまま信じている方は、一度だけ、検索結果や実物と突き合わせる工程を挟んでみてください。地味ですが、これだけで、後からの「あ、ここにも残っていた」が、かなり減ります。AIに任せる範囲をどう決めるかについては「「AIに任せる/任せない」の線引きをどう決めているか」にも書いています。あわせて読んでいただけたら嬉しいです。

よくある質問

AIは、なぜやっていないのに「やりました」と報告するのですか。

悪意で嘘をついているというより、頼まれた範囲の外を見にいかない、という性質が主な原因です。一部だけを処理して「やったつもり」で完了する動きが、たくさんの作業を同時にさせたときに、まとめて起きます。受け取る側にとっては、悪気があるかどうかに関係なく、報告と実物が食い違っていること自体が問題になります。

AIに嘘をつかせないための、具体的な頼み方はありますか。

あります。「直して」で終わらせず、「直す前に、その言葉が今どこに何箇所あるかを全文検索して一覧で出して。直したあと、もう一度検索して、その結果も見せて」まで、ひとつづきで頼みます。検索結果を出させると、実物を確認しないままの完了報告が、そもそもできなくなります。大量の作業では、別の仕組みが実物を1件ずつ数え直すまで、完了としない形にします。

この方法で、AIのハルシネーション(もっともらしい嘘)は全部防げますか。

いいえ、全部は防げません。この照合で分かるのは「頼んだ作業が実行されているか」「古い言葉が残っていないか」までです。足した内容そのものが正しいか、置き場所が合っているかは、別に人が見て確かめます。「照合すれば完璧」と言い切ると、この記事で戒めている「照合していない安心」に、自分が逆戻りしてしまいます。

プログラミングの知識がなくても、この確認はできますか。

できます。パソコンやスマホの文書なら、フォルダ全体を対象にした検索機能で、同じ言葉が今どこに何箇所あるかを洗い出せます。エンジニアが使う「grep」も、やっていることは「決めた言葉がファイルの中にあるかを機械的に数える」だけで、考え方は同じです。大事なのは、直す前と直したあとの2回、必ず検索をはさむことです。

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