客室に置いてある案内は、たいてい紙です。私たちが引き継いで立て直している旅館もそうでした。その案内のうち、直しの多いものを、QRコードから開くアプリに移す準備をしています。作ったのは私ではなく、宿の現場スタッフです。AIを使って、自分で作りました。この記事では、そのアプリの中身と、作るときに一番大事だった「最初に何を聞くか」の決め方を書きます。
私たちの宿の客室にあったのも、パウチした紙が1枚でした。館内図とお風呂の時間と、朝食の場所が書いてあります。
その紙を作り直すには、印刷が要ります。だから「あとで直そう」のまま、去年の情報が置きっぱなしになります。
私たちは、この案内をQRコードから開くアプリに移すことにしました。QRコードは、スマホのカメラで読み取ると決まったページが開く、あの四角い模様のことです。
全部を移すわけではありません。直す回数が多いものからアプリにして、紙は残します。
画面はもうできています。QRコードを印刷した紙を客室に置くのは、営業を再開するときです。
作ったのは、外の制作会社ではありません。宿の現場スタッフです。
ここで起きた変化は、案内がデジタルになったことではないと考えています。案内が「発注して固定するもの」から、「現場が作って、その場で直すもの」に変わったことです。
もう1つ、作ってみて分かったことがあります。ゲスト向けアプリの本体は、案内のページではありません。最初に何を聞くかです。
私たちのアプリが最初に聞くのは、メールアドレスと年代と性別の3つだけです。このうちメールアドレスが、泊まってくれた方と後日つながれるかどうかを分けます。年代と性別は、どんな方が泊まっていたかを数で残すための項目です。
以下、実物の中身と、同じものを作るときの順番を書きます。先に断っておくと、このアプリはまだ実際のお客様が使っていません。その話は7つ目の見出しに正直に書きます。
私たちが運営しているのは、長野の山あいにある温泉旅館です。創業は約140年で、客室は全部で9室あります。
3ヶ月ほど休館していた宿を引き継いで、いまは再開の準備をしています。
この宿の客室に、QRコードを置く計画がありました。読み取ると「ご滞在の手引き」が開きます。館内の案内をまとめた、スマホで読むページのことです。
その手引きを、現場のスタッフがAIを使って自分で作り、ある日そのまま共有してきました。
使ったのは Claude というAIです。日本語で頼むと、画面やプログラムを作ってくれます。
私たちが渡していたのは、道具の使い方だけです。夜に和室でパソコンを並べて、次の3つを教えてきました。
1つ目は、AIへの頼み方です。作りたいものを日本語で書いて、出てきたものを見て、違うところを言い直す。この繰り返しだけです。
最初の1回は、たとえばこう書きます。「旅館の客室に置く、スマホで読む案内ページを作ってください。開いたら先にメールアドレスと年代と性別を聞いて、そのあとに館内の案内を出してください」。
これくらいの日本語で、1枚目の画面が返ってきます。あとは実物を見ながら、「文字が小さい」「この項目は要りません」と言い直していきます。
2つ目は、直す前の形を残しておくやり方です。おかしくなっても前に戻せると分かっていれば、こわがらずに触れます。
3つ目は、手元で動いている画面を、人が開けるURLにする手順です。自分のパソコンの中だけで動いている画面は、客室に置けません。URLになって初めて、QRコードから開けるようになります。
プログラムの文法は教えていません。日本語で頼めば、AIがページのファイルを書いてくれるところまでを渡しました。
その先で何を作るかは、決めていませんでした。だから、お客様に見せる画面が出てきたときは、正直に言うと想定していませんでした。
私たちがこれまで作ってきたのは、スタッフや管理者が見る画面です。中身は「スタッフの個人ページと管理者の帳場。現場は何が変わったか」に書きました。
今回のアプリは、そこが違います。お客様に見せる画面を、現場が自分で作って、自分で直す。私たちにとっては、これが初めてでした。
道具の使い方を渡すと、渡した側が考えていなかった場所に使われます。これは想定外というより、渡し方が効いた証拠だと受け止めています。
QRコードを読み取ると、手引きの本文の前に、短い入力画面が出ます。聞くのは3つだけです。
3つに絞ったのは、多く聞くほど、その場で閉じられるからです。
名前と住所は、チェックインの宿帳で書いていただきます。だから、ここでもう一度聞く必要がありません。
電話番号も聞きません。宿から電話がかかってくると身構える方がいるので、最初の1画面には置かない判断をしました。
メールアドレスだけは、性質が違います。これは、滞在が終わったあとも残る、こちらからの連絡手段だからです。
年代と性別を聞くのは、誰が泊まっているかを数で持っておきたいからです。「若い方が増えた気がする」と「20代が3割です」では、次の打ち手の決め方が変わります。
入力画面には、何に使うかを1行で書くことにしています。メールアドレスは後日のお知らせに、年代と性別は案内の見直しに使う、という中身です。この文面は、いま作っているところです。
どちらもまだ運用前です。いまは、そう使える設計になっているというところまでです。
入力を必須にするかどうかは、宿によって判断が分かれるところだと思います。私たちはまだ決めていません。館内の案内は宿のサービスなので、読むための条件にはしたくないと考えています。営業を再開するまでに決めます。
ここで、読んでいる方に自分の数字を出していただく手順を書きます。私たちの宿の数字より、そちらのほうが役に立つはずです。
手順は3つです。予約台帳と、いま使っている連絡手段があれば出せます。
この割合が低いほど、もう一度来ていただく方法が、予約サイトと広告だけになります。自分から声をかけられる相手が、手元にいない状態です。
私たちも、この数字と向き合いました。引き継いだ宿泊名簿は4,012件あり、アンケートは371件ありました。中身はAIに読ませて、どんな方が泊まっていたのかを分析しています。
ただ、過去の記録を読むことと、これから来る方とつながる手段を持つことは、別の話です。過去の記録は引き継げますが、これから来る方とつながる手段は、自分たちで作るしかありません。
だから、客室のQRコードに最初の3項目を置きました。案内を読む場所と、連絡先を残していただく場所を同じにするのが狙いです。残すかどうかを決めるのは、お客様のほうです。
数字が出たら、目標も1つだけ決めてください。私たちが置いたのは、「泊まった組数のうち、何割からメールアドレスをいただけたか」という1本です。
この1本があると、案内の文言を直したときに、効いたかどうかを後から確かめられます。目標が無いまま作ると、直しても良くなったのか分かりません。
アプリと一緒に、管理画面も作られていました。管理画面は、表に出るページの中身を自分たちで書き換えるための、裏側の画面です。
スマホで開いて、文章を直して、保存します。それだけで、お客様が見る画面が変わります。
この管理画面には、パスワードをかけてあります。開けるのは宿の人だけです。
これがあるかどうかで、運用はまったく変わります。
管理画面がない場合、直したいときに作った人へ頼むことになります。頼む相手が休みなら、その日は直りません。
「朝食は7時30分から」を「7時から」に直すだけの作業に、連絡と待ち時間が挟まります。すると、だんだん直さなくなります。
私たちは、社内で使う数字の画面を自分たちで作ったときにも、同じことを感じました。その話は「ダッシュボードを外注せず、自分たちで作った理由」に書いています。
作るときに決めておくことが、2つあります。1つは誰が直すかで、もう1つは直したことを誰に伝えるかです。
直せる人が3人いても、担当が決まっていないと誰も直しません。私たちも、誰が直すかを開ける前に決めます。
伝え方も決めておいたほうがいいと考えています。直した本人しか知らないと、フロントで古い案内を口頭で伝えてしまうからです。
ここまでの中身を、作る順番に並べ直します。宿の側でやることは、この6つです。
QRコードを1番目に置いていないのは、先にURLが要るからです。読み取った先のページが無いうちは、QRコードだけ作っても意味がありません。
順番でもう1つ大事なのは、1を3より先に置くことです。
案内の中身は、あとから何度でも直せます。しかし、最初に聞かなかった項目は、あとから遡って集められません。
2を軽く見ないでください。ここを決めずに集めはじめると、あとから「誰が持っているのか分からない名簿」になります。
費用については、実額を書きません。宿の規模でも、何を自分たちでやるかでも変わるので、他所の金額は判断材料にならないからです。
どのAIを使ったかは、2つ目の見出しに書いたとおり Claude です。ただ、道具の名前は、いま半年おきに変わっています。押さえておけばいいのは、日本語で頼めば画面が返ってくる道具が、もう複数あるということだけです。
1つだけ書けることがあります。この6つの工程のうち、外に発注が必要だったものは、私たちの場合1つもありませんでした。
ここまで書いてきましたが、先にお伝えしておくことがあります。このアプリは、まだ実際のお客様が1人も使っていません。
私たちの宿は、営業の再開が今年の秋の予定です。だから、客室のQRコードは、まだお客様の前に置かれていません。
つまり、「登録率が何割でした」「案内の問い合わせが減りました」という数字は、この記事に1つもありません。効果はこれから測る段階です。
いま言えるのは、入力していただければ連絡先が残る形になっている、というところまでです。入力するかどうかはお客様が決めることなので、置いておけば勝手に貯まるわけではありません。
再開したあとに何を見るかは、先に決めました。3つあります。
この3つが出たら、あらためて記事にします。数字が出る前に「効きます」と書くのは、私たちのやり方ではありません。
動いているものと動いていないものを分けて書く姿勢については、「30歳。廃業寸前の旅館を継いだ私が、現場のAI活用を全部見せます」でも同じようにしています。
この形が向かない場合もあります。3つ挙げます。
もう1つ、これは宿の状況によります。人手が足りていて、案内の内容が何年も変わらない宿なら、紙のままでも困りません。
私たちがアプリにしたのは、まだ何もかもが確定していない再開前だからです。直す回数が多いほど、この形は効きます。
自分たちで作るという選び方そのものについては、「コードを書けなくても、外注もしなくても。AIとサイトを運用する新しい形」に考え方を書いています。
捨てていません。QRコードを載せた紙は客室に残りますし、お風呂の時間のような、その場ですぐ見たい情報は紙にも書いておきます。スマホを開きたくない方が必ずいるので、紙とアプリのどちらでも足りる状態にしています。
無料の作成サービスに、開きたいページのアドレスを入れると出てきます。作業そのものは数分で終わります。時間がかかるのはQRコードを作ることではなく、その先に何を置くかを決めるほうです。
聞き方によると考えています。私たちは項目を3つに絞り、何に使うかを同じ画面に1行で書くことにしています。入力なしで案内だけ読める道を作るかどうかも、営業再開までに決めます。案内をお見せする条件として使わないことが、いちばん大事だと思っています。
私たちの宿で作ったスタッフも、もともとプログラムを書ける人ではありません。日本語でAIに頼めば、ページのファイルが出てくるところまで来ています。ただし、いきなり作れるわけではなく、AIへの頼み方とファイルの置き場を覚える時間が先に要ります。
何に使うかを入力画面に書き、書いた範囲の外では使わないことです。配信を止めたい方が自分で止められるようにしておくことも必要です。宿の中で誰が扱えるかも、先に決めておいてください。
管理画面から直せる形にしておけば、次の担当が引き継げます。逆に、作った人しか触れない形だと、その人が抜けた時点で古い情報のまま止まります。だから私たちは、アプリと管理画面を必ずセットで考えています。
私たちの宿では、現場のスタッフが作れました。客室にQRコードを置ける宿であれば、同じ形は組めると思います。ただし私たちも、まだお客様に使っていただく前の段階です。私たちのAI導入支援では、この自社実践の型をもとに、御社の現場に合わせて設計します。
この記事で一番書きたかったのは、アプリの作り方ではありません。最初に何を聞くかを決めるのは、今日できるということです。
紙に3行だけ書けば決まります。聞く項目と、あえて聞かない項目と、何に使うかの説明文です。
私たちの答えは、メールアドレスと年代と性別の3つでした。宿によって、ここは変わっていいと思います。
決めたあとで、それをどこに置くかを選べばいいと考えています。紙のアンケートでも、客室のQRコードでも、置き場所は後から変えられます。
順番が逆になると、集めたあとで「これ、何に使うんだっけ」になります。私たちも、先に置き場所から考えかけて、一度立ち止まりました。
私たちの宿も、まだ開けていません。答え合わせはこれからです。