予約サイトの手数料が重い。そう感じている旅館や宿の方に向けて書いています。手数料は、ふつう「率」で語られます。ですが、経営に効くのは「1予約あたり、いくら消えるか」という金額です。私は、創業140年の旅館を自社で運営しています。この記事では、手数料を金額に置き換える計算と、その金額から広告費の上限が決まる仕組みを、具体的にお伝えします。
OTAの手数料は、率でなく「1予約あたりの金額」で見ます。1泊2万円で15%と仮定すると、1予約3,000円です。
この金額の裏返しが、直販1件に使ってよい広告費の上限になります。1予約で残る粗利がいくらかで、その上限が決まります。
だから、他社の料率の一覧を眺めるより、自分の契約の数字を1つ入れて計算するほうが早いです。
いま手数料の負担で悩んでいる方に、長い前置きは要らないと思います。結論から先にお伝えします。
OTAの手数料は、「15%」や「10%」という率で語られます。ですが、率のままだと、自分の宿にどう効いているのかが見えません。見るべきは、率を金額に置き換えた「1予約あたり、いくら消えるか」です。
大切なことは、3つです。
1つだけ、先にお断りします。この記事に出てくる料率(15%など)は、すべて計算のための仮定です。実際の料率は、OTAや契約プランによって変わります。私たちの宿が実際に払っている手数料の金額も、宿が特定されてしまうため公開していません。出せるのは、考え方と、仮定を置いた計算例までです。
それでも、この計算のしかたは役に立ちます。自分の契約の数字を1つ入れるだけで、自分の宿の答えが出るからです。ここから、順番に見ていきます。
この記事には、集客と数字のことばが5つ出てきます。むずかしい話にしないために、先に説明しておきます。
「OTA」=楽天トラベルやじゃらんなどの、宿泊の予約サイトのことです。Online Travel Agentの略です。
「手数料」=OTA経由で予約が入ったときに、宿がOTAに支払うお金です。契約によって「システム利用料」などと呼ばれることもあります。
「直販」=予約サイトを通さずに、自社のサイトや電話で直接いただく予約のことです。
「粗利」=売上から、予約が増えるぶんだけかかるお金(手数料や食材費など)を引いて、手元に残るお金のことです。
「ROAS」=かけた広告費に対して、売上が何倍返ったかを示す数字です。広告費10万円で売上100万円なら、ROASは1,000%です。
まず、手数料の仕組みを整理します。むずかしくありません。
OTAは、掲載そのものは無料のことが多いです。宿の情報を載せておくだけなら、お金はかかりません。お金がかかるのは、予約が入ったときです。予約1件ごとに、宿泊料金の何%かを手数料として支払います。
ここが大事なところです。手数料は、宿泊料金にかかります。だから、単価の高い予約ほど、1件あたりの手数料の金額も大きくなります。同じ15%でも、1泊1万円の宿と1泊3万円の宿では、1件で消える金額が3倍違います。
つまり、率が同じでも、宿によって「1予約あたりの痛み」はまったく違うということです。だからこそ、率のままでは判断できません。自分の宿の単価をかけて、金額に直す必要があります。
先に、誤解のないように書いておきます。手数料は、ただ取られているお金ではありません。OTAは、まだ知られていない宿を、たくさんの人の目に触れさせてくれます。新しいお客さまと出会う入口として、とても優秀です。
問題は、手数料そのものではなく、「金額を把握しないまま払い続けている」状態のほうです。いくら払っているかが分かっていれば、それは投資の判断ができます。分かっていないと、ただ利益が薄い理由が分からないまま、時間だけが過ぎます。
この記事がおすすめするのは、OTAをやめることではありません。まず、いくら払っているかを金額で知ることです。
では、実際に金額に直してみます。ここでは「1泊2万円の予約」を例にします。料率は、10%・15%・20%の3つを仮に置いて比べます。
1泊2万円の予約に対して、手数料が何%かかると、1予約あたり・月100組・年間で、それぞれいくらになるか。並べると、次のようになります。
| 手数料の料率(仮定) | 1予約あたり | 月100組なら | 年間(月100組) |
|---|---|---|---|
| 10% | 2,000円 | 20万円 | 240万円 |
| 15% | 3,000円 | 30万円 | 360万円 |
| 20% | 4,000円 | 40万円 | 480万円 |
※すべて「1泊2万円・月100組がOTA経由」と仮定した試算です。料率も仮の数字です。実際の金額は、あなたの宿の単価・組数・契約している料率で変わります。
率で見ると「10%と15%は5%の差」です。小さく感じます。ですが、金額で見ると、年間で120万円の差です。同じ宿の話とは思えないくらい、印象が変わります。
これが、率を金額に直す意味です。5%という数字は、頭では大きさが分かりません。ですが「年間120万円」なら、その分で何ができるかを、すぐに思い浮かべられます。
もう一度書きます。上の表は、単価を2万円、組数を100組と仮定した例です。もっと小さい宿なら、組数を自分の数字に置き換えてください。例えば月30組なら、15%の行の金額はおよそ3分の1になります。あなたの宿の単価と組数を入れれば、あなたの宿の金額が出ます。計算そのものは、かけ算だけです。
「OTA 手数料」で調べると、各社の料率を一覧にした記事がたくさん出てきます。この記事では、その一覧をあえて載せていません。理由が3つあります。
自分の料率を調べるのは、むずかしくありません。契約書か、OTAの管理画面を開いてください。「手数料」「システム利用料」「送客手数料」などの項目に、料率が書いてあります。
見つからない場合は、OTAの担当窓口か、導入したときの資料に問い合わせれば確認できます。まずは、自分の契約条件を正確に知ること。これが、計算の第一歩です。
料率が分かったら、次の3つの数字をそろえます。直近1ヶ月の「OTA経由の予約数」、平均の「宿泊単価」、そして「料率」です。この3つがあれば、あなたの宿の1ヶ月の手数料の金額が出ます。組数 × 単価 × 料率、それだけです。
他社の一覧を眺めて終わるより、この3つを1回そろえるほうが、はるかに役に立ちます。数字が出た瞬間に、次に何をすべきかが見えてくるからです。
手数料の金額が出たら、次は「粗利」を出します。ここが、この記事でいちばん大事なところです。
粗利とは、売上から、予約が増えるぶんだけかかるお金を引いて、手元に残る金額のことです。宿泊業でいえば、予約サイトの手数料、決済の手数料、食材費、リネンや清掃の費用などを引いたあとに残るお金です。家賃や人件費のような、予約の数に関わらず毎月かかる固定費は、ここではいったん引きません。1予約が増えたときに、実際に増えるお金だけを引きます。
例で計算してみます。ここからは、単価を変えて、1室泊の売上が5万円の宿を例にします。さきほどまでの1泊2万円の例とは、別の宿だと思ってください。その5万円の売上から、手数料や食材費、リネン・清掃の費用で3万円かかるとします。すると、1室泊あたりの粗利は2万円です。この2万円が、予約が1件増えるたびに、実際に手元に積み上がる金額です。
ここで、手数料が粗利にどう効くかを見ます。もし手数料が上がれば、引く金額が増えるので、粗利は減ります。手数料が下がれば、粗利は増えます。つまり手数料は、売上ではなく、粗利を直接削る相手だということです。
売上だけを見ていると、この動きは見えません。予約が入れば売上は増えます。ですが、そこから手数料が引かれ、原価が引かれます。残るお金は、売上とはまったく別の動き方をします。だから、売上でなく粗利で見る必要があります。
手数料の話をすると、つい「料率を1%でも下げたい」という方向に向かいがちです。もちろん、下げられるなら下げたほうがいいです。契約更新のタイミングで、プランや掲載の仕方を見直すと、料率が変わることもあります。担当の窓口に一度確認する価値はあります。
ただ、料率の交渉は、宿の側で自由に動かせる部分が多くありません。それより自分でコントロールしやすいのは、「1予約あたり、いくら粗利が残るか」のほうです。単価を上げる、原価を見直す、直販の比率を上げる。これらは、料率の交渉より、自分の手で動かせます。
粗利がいくら残るかが分かると、次の章の「広告費の上限」が決まります。ここまでが、手数料を金額と粗利で見る、という話でした。
ここが、この記事で一番お伝えしたいことです。手数料を金額で押さえると、直販1件に使ってよい広告費の上限が、自動的に決まります。
順番に説明します。OTA経由の予約は、手数料が引かれます。直販の予約は、その手数料がかかりません。その代わり、直販でお客さまに来てもらうには、広告費がかかることがあります。
ここで、広告費をいくらまでかけてよいかは、1予約あたりの粗利から決まります。さきほどの、売上5万円で粗利2万円という宿の例で続けます。1予約で残る粗利が2万円のとき、もし直販1件を取るための広告費が、この2万円ちょうどだと、その1件は利益がゼロのトントンです。2万円を超えると、その1件は赤字になります。
ですから、上限いっぱいまで広告費を使うのが正解ではありません。上限は「これ以上かけたら損をする」という線です。実際には、その線より下で運用して、差の分を利益として手元に残します。例えば1件を1万円の広告費で取れているなら、粗利2万円との差の1万円が、その1件で手元に残る計算です。
この「上限」を先に決めておくと、広告を続けるか止めるかで迷わなくなります。1件あたりの広告費が上限に近づいたら止める。じゅうぶん下回っているうちは続ける。判断の基準が、感覚でなく数字になります。
つまり、こういうことです。OTAの手数料の金額を知る作業は、そのまま「直販1件にいくらまで使えるか」を知る作業でもあります。手数料の把握と、広告費の設計は、じつは同じ計算の表と裏です。片方だけを見ていると、もう片方を見落とします。
広告費の決め方そのものは、別の記事にくわしく書いています。売上から逆算して広告費を出す手順は「旅館の広告費は月いくらが適正か」にまとめました。この記事は、その手前にある「手数料と粗利」の話に絞っています。
考え方だけでは、実感がわきにくいと思います。私たちが自社の旅館でやってきた数字を、出せる範囲で書きます。
先に、立場をはっきりさせておきます。私たちは、支援を仕事にしている会社であると同時に、創業140年の旅館を自分たちで運営している当事者です。だから、これから出す数字は、よそから借りた事例ではなく、自分たちの宿で起きたことです。
私たちは、OTAに頼りきりにせず、広告で自社の予約導線にお客さまを集める形を作りました。理由は、まさにこの記事の話のとおりです。OTA経由は手数料で粗利が薄くなるので、直販の比率を上げたかったからです。その広告運用で出た数字が、次のとおりです。
月額30万円の広告費で、ROASは最高1,200%超を記録しました。かけた広告費の12倍を超える売上が返ってきた計算です。売上は前年同月比240%まで伸びました。
ここで、数字の読み方を正直に補足します。ROASが数えているのは、広告経由の売上だけです。宿全体の売上ではありません。そして1,200%超は「最高値」です。毎月この数字が出るわけではありません。誇張なく、そのまま読んでください。
この数字が出たのは、特別な才能があったからではありません。1予約あたりの粗利を先に把握し、そこから広告費の上限を決めて、上限の中で運用したからです。上限を決めていたので、赤字の広告に気づかず出し続ける、ということが起きませんでした。手数料を金額で見る習慣が、そのまま広告の判断につながっていた、ということです。
この型は、旅館だけのものではありません。私たちが同じ考え方で関わったスクール事業では、広告費46万円で月商387万円になりました。業種は違いますが、粗利から上限を決めて、数字を見ながら運用する、という順番は同じです。手数料や広告費を「1件あたりの金額」で見て、粗利と並べる。この見方は、宿以外でも通用します。
手数料まわりで、私自身がやりがちだったこと、近くで見てきたつまずきを、3つ共有します。合わせて、対処のしかたも書きます。
3つに共通しているのは、「金額と粗利を、先に出していない」ことです。逆に言えば、金額と粗利さえ先に出しておけば、この3つのつまずきは、ほとんど防げます。むずかしい計算は要りません。かけ算と引き算だけです。
自分の宿の赤字が、そもそもどこで起きているのかを確かめたい方は、「旅館経営が厳しい理由を5つの数字に分解する」を先に読んでください。稼働率・客単価・OTA比率・1室泊あたりの粗利・固定費の5つに分けて、赤字の場所を特定する手順を書いています。手数料は、そのうちの1つです。
ここまで読んで、「では手数料を下げよう」と思われたかもしれません。ですが、順番としては、料率を下げるより先にやることがあります。直販の受け皿を作ることです。
直販は、手数料がゼロになるわけではありません。宿泊予約システムや、クレジット決済の手数料はかかります。仮に決済を3%とすると、1泊2万円の予約で宿に残るのは1万9,400円です。OTA経由(15%と仮定)の1万7,000円と比べると、差は1組あたり2,400円です。これは、直販にかける広告費を引く前の差です。ですから、直販1件の広告費が、この差より小さく収まるほど、宿に多く残ります。1組ではわずかでも、組数が積み上がると、無視できない差になります。
そして、直販にはもう1つ大きな価値があります。予約してくれた方の連絡先が、自社に残ることです。次のご案内を、広告費をかけずに届けられます。OTA経由では、この連絡先はOTA側に残り、宿には残りません。手数料の差額だけでなく、この「顧客データが残るかどうか」も、直販を増やす理由になります。
やり方は、急にOTAをやめることではありません。新しいお客さまとはOTAで出会う。2回目からは、直販で来ていただく。この流れができると、手数料の負担は、少しずつ構造的に軽くなっていきます。
直販を増やす具体的な手順は「OTA依存から抜け出すには」にまとめています。手数料の差額のシミュレーションと、直販を増やす4つのステップを書いています。集客全体の進め方は「旅館の集客方法まとめ」をご覧ください。
この記事の役割は、その手前にあります。まず、いま自分がいくら払っているかを、金額で知ること。そこから、直販1件にいくらまで使えるかを決めること。この2つが、すべての打ち手の出発点になります。
料率は、OTAや契約しているプランによって変わります。この記事では、あえて各社の一覧は載せていません。正確な数字は、あなたの契約書か管理画面の「手数料」「システム利用料」などの項目にのっています。他社のサイトの数字を写すより、自分の契約の数字を1つ確かめるほうが、計算は正確になります。
率のままだと、経営にどう効くかが見えにくいからです。例えば1泊2万円で手数料15%と仮定すると、1予約あたり3,000円が引かれます。金額に置き換えると、月に何組で年間いくら、という形で自分の宿の負担が見えてきます。
直販1件に使ってよい広告費の上限が分かります。1予約で残る粗利が2万円なら、直販1件を取るための広告費が2万円を超えた時点で、その1件は利益が出ません。手数料を金額で押さえると、この上限を自分で決められるようになります。
急にやめる必要はありません。OTAは、まだ知られていない宿にとって、新規のお客さまと出会う入口として優秀です。おすすめは、OTAを続けながら、直販の比率を少しずつ上げていくことです。手順は「OTA依存から抜け出すには」にまとめています。
ゼロにはなりません。直販でも、宿泊予約システムやクレジット決済の手数料がかかります。仮に決済3%とすると、1泊2万円の予約で宿に残るのは1万9,400円です。OTA経由(15%と仮定)の1万7,000円と比べると、差は1組あたり2,400円です。これは直販にかける広告費を引く前の差ですが、組数が積み上がると無視できない差になります。
まず、直近1ヶ月のOTA経由の予約数と、平均の宿泊単価を出してください。そこに自分の契約の料率をかけると、1ヶ月の手数料の金額が出ます。この金額と、1予約あたりの粗利を並べて見ると、いま何にいくら使えるのかが決まります。
手数料の把握から、直販を増やす設計、広告費の上限の決め方まで、実データにもとづいてご相談を承っています。私たち自身が、自社の旅館で同じ計算をして運用してきました。支援内容のくわしい説明は「旅館・宿の集客支援」のページをご覧ください。
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