旅館の経営が厳しい。そう感じている方に向けて書いています。私は、廃業寸前だった創業140年の旅館を引き継いだ当事者です。この記事では、業界がどれだけ厳しいかという話はしません。自分の宿のどこで赤字になっているかを、5つの数字に分けて確かめる方法を書きます。
この記事の要点
立て直しを一番遅らせているのは、どこで赤字になっているかを数字で見ていないことです。
業界が厳しいのは本当です。人手が採れない、設備が古い、手数料が重い。どれも実際に起きていることで、数字を出せば消えるものではありません。この記事の後半では、数字では動かせなかった話も書きます。
赤字そのものを作っているのは、設備の古さや需要の細りや重い固定費のほうです。数字を見ていないことが赤字を生むわけではありません。ですが、場所が分からないままだと手が打てず、立て直しだけが遅れていきます。
業界の話をいくら読んでも、自分の宿の何を直すかは決まりません。決まるのは、赤字の場所を自分の数字で特定したときです。
「旅館 経営 厳しい」と検索して、ここにたどり着いた方が多いと思います。おそらく確かめたいことは、2つあるはずです。うちの宿だけがおかしいのか。そして、まだ手はあるのか。
先に前半にお答えします。同じことは、多くの宿で起きています。ただし、原因まで同じとは限りません。ここが大事なところです。
業界のレポートを開くと、人手不足・設備の老朽化・予約サイトの手数料という3つが並んでいます。どれも事実です。ですが、それを読んでも自分の宿のどこが穴なのかは分かりません。一般論は、自分の宿の打ち手には変換できないからです。
私が最初にやったのは、5つの数字を紙に書き出すことでした。この5つを並べると「漠然とした厳しさ」が「直せる場所」に変わります。まず出すのは、この5つで足ります。
後半で穴を見分けるときに、補助の数字を少しだけ足します。何をそろえればよいかは、その章の冒頭に一覧で書いてあります。
専門的な会計の知識は要りません。言葉の意味だけ、先にそろえておきます。
1つだけ、先に分けておきたいことがあります。「出す順番」と「直す順番」は別だということです。
出す順番は、上の1から5のとおりです。稼働率から固定費まで、順に紙に書き出します。直す順番は違います。1室泊あたりの粗利を先に確かめてから、稼働率を埋めにいきます。粗利が残らない状態で部屋を埋めても、赤字が増えるだけだからです。
この2つは混ざりやすいので、先に書いておきました。以降の本文でも、そのつど「出す話」なのか「直す話」なのかを書き添えます。
先に、この記事で出せないものをお断りしておきます。私たちの宿の稼働率・客単価・OTA比率・粗利・固定費の実数は、公開していません。全9室という規模で数字まで出すと、宿が特定されてしまうからです。
代わりに、出し方と判定のしかたを全部書きます。あなたの宿の数字を入れれば、そのまま答えが出る形にしてあります。私たちの実数を見て安心するより、自分の宿の5つを持ち帰るほうが役に立つはずです。
ここから先は、この5つを実際に出した記録です。うまくいった話だけでなく、数字では動かせなかった話も書きます。
引き継いで最初に分かったのは、売上が足りないという話ではないということでした。残るお金を、誰も数えていませんでした。
私たちが引き継いだのは、長野の山あいにある創業140年の旅館です。全部で9室の、小さな宿です。
引き継いだ時点で、宿は3ヶ月止まっていました。電気も止まっていました。まず電気を通すところから始まりました。
建物に入ると、壁も床もカビに覆われていました。厨房の機材も、ほとんどがやられていました。数字を見る前に、掃除と修理の話から始まったということです。
それでも、最初の週にやったのは掃除だけではありません。予約の状況と、売上と、固定費を紙に並べました。ここを飛ばすと、あとの判断がすべて狂うと考えたからです。
継ぐか、辞めるかという入口の判断そのものについては、別の記事に書いています。この記事は「続ける前提で、赤字の場所を特定する」話に絞ります。入口で迷っている方は「旅館の廃業・事業承継を考える前に」から読んでください。
数字を並べて、はっきりしたことがあります。私たちが見ていたのは、売上だけでした。
売上は、予約が入れば増えます。分かりやすい数字です。ですが、そこから予約サイトの手数料が引かれ、食材費が引かれ、人件費が引かれます。残るお金は、売上とはまったく別の動き方をします。
「今月は忙しかったのに、お金が残らない」。この感覚の正体が、ここにあります。忙しさは売上に比例しますが、手元に残るお金には比例しません。
だから、厳しさの正体は「売上が少ないこと」ではありません。「どこで消えているか分からないこと」です。消えている場所は、次の5か所のどれかにあります。
厳しさは、1つの原因だけでは起きません。稼働率・客単価・OTA比率・粗利・固定費の5か所のどこかに、穴が開いています。
上から順に確かめてください。1つ確かめるごとに、原因の候補が減っていきます。
稼働率を月の平均だけで見ていると、直す場所が分かりません。同じ数字でも、中身が正反対のことがあるからです。
例えば、稼働率が60%の宿が2つあるとします。片方は平日30%・週末100%で、もう片方は平日55%・週末70%です。月の平均は同じですが、打つ手はまったく違います。
前者は、週末を上げる余地がありません。埋めるべきなのは平日です。後者は、まず週末を満室に近づけるほうが早く効きます。分けて出さないと、この判断ができません。
平日が空いているなら、来ていただく方の目的も週末とは違います。仕事の途中で泊まる方、連休を外して静かに過ごしたい方、平日しか休めない方。同じ宿を、別の言葉で案内する必要があります。
私たちも、平日の埋め方はいま取り組んでいるところです。ここは成果が出たと言える段階ではありません。
客単価を1つの数字で見ていると、「上げるか、下げるか」しか判断できません。これでは打ち手が値段しか残りません。
宿泊料と、料理・飲料に分けてください。分けた瞬間に、触る場所が決まります。
宿泊料を上げるのは、お客様にとって一番わかりやすい値上げです。抵抗も大きくなります。一方で、夕食に1品足す、地元のお酒を1本置くといった打ち手は、受け取り方がまったく違います。同じ金額でも、値上げではなく「増えた」と感じていただけるからです。
分けて出すのは、難しい作業ではありません。予約台帳の売上を、2つの列に書き直すだけです。
費用のほうも、同じ2つに分けてください。宿泊にかかる費用(リネン・清掃・水道光熱の変動分)と、料理・飲料にかかる費用(食材費・飲料の仕入れ・調理場の臨時人件費)です。売上だけ分けて費用をまとめてしまうと、意味が半分になります。
まとめて1つの粗利にしていると、料理で出ている赤字が宿泊の利益に隠れます。夕食を豪華にするほど評判は上がるのに、お金は減っていく。この形は、分けて見るまで気づけません。
私たちも、最初は1つの粗利で見ていました。分けたときに、売上の見え方と手元に残る金額の見え方が違うことが分かりました。手間は増えますが、ここは飛ばさないでください。
OTA(楽天トラベルやじゃらんなどの予約サイト)は、知っていただく入口としては優秀です。まだ誰も知らない宿に、最初のお客様を運んでくれます。
ただし、手数料がかかります。例えば1泊2万円の宿泊で、手数料を15%と仮定すると、1室泊あたり3,000円です。ここでの15%はあくまで仮定の数字で、実際の料率はサイトやプランによって変わります。
問題は、この3,000円が全部の予約に乗っているかどうかです。OTA比率が9割の宿と、5割の宿では、1年で残るお金がまったく変わってきます。
これは「OTAをやめましょう」という話ではありません。急にやめると、予約そのものが消えます。まず比率を知って、直販の割合を少しずつ上げていく。順番はこちらです。具体的な手順は「OTA依存から抜け出すには」に書いています。
広告費を「月にいくらまでなら出せるか」で決めていませんか。私たちも最初はそうでした。この決め方は、順番が逆です。
先に決めるのは、1室泊あたりの粗利です。例えば1室泊の売上が5万円で、予約サイトの手数料と食材費とリネン・清掃の費用で3万円かかるなら、粗利は2万円です。
この場合、1室泊を取るための広告費が2万円を超えた時点で、その1件は損になります。これが上限のラインです。
ただし、上限は目標ではありません。上限ぎりぎりの2万円まで使うと、固定費には1円も回りません。上限は「これを超えたら確実に損」という線であって、そこまで使ってよいという意味ではありません。
実際に使うときは、固定費の分を残した金額で運用してください。1室泊が背負う固定費は、こう出します。「固定費の月額ライン ÷ 今月めざす室泊数」です。
例えば固定費が300万円で、今月300室泊をめざすなら、300万円 ÷ 300で1室泊あたり1万円です。粗利2万円からこの1万円を引くと、広告費に使えるのは1万円までになります。
上限の線(2万円)と、日々使う目安の線(1万円)は、別に持っておくと迷いません。めざす室泊数を増やすほど、1室泊が背負う固定費は軽くなります。
この線を先に引いておくと、広告を続けるか止めるかで迷わなくなります。判断が、感覚から計算に変わるからです。
私たちは、この上限を決めてから広告を出しました。広告費は月額30万円で、ROAS(広告費に対して何倍の売上が返ってきたかを示す指標)は最高で1,200%を超えました。かけた広告費の12倍以上が、広告経由の売上として返ってきたということです。
ひとつ、はっきり分けて書いておきます。このROASは広告経由の売上だけを見た数字です。宿全体の売上とは別のものなので、混ぜて読まないでください。広告費の決め方は「旅館の広告費は月いくらが適正か」でくわしく書いています。
固定費は、お客様がゼロでも出ていくお金です。正社員の人件費・光熱費の基本料金・保守や保険の契約などが、ここに入ります。月額を決めて出している広告費も、ここに数えてください。
借入の返済も、このラインに足しておいてください。会計の上では費用として扱いませんが、現金は毎月出ていきます。宿を続けられるかどうかを見たいなら、出ていく現金で数えるほうが実感に合います。
このラインを即答できないと、赤字にはいつも後から気づくことになります。月末に通帳を見て、はじめて分かるという状態です。
私たちは、宿が止まっている間もお金が出ていくことを、身をもって知りました。3ヶ月止まっていた宿を引き継いだので、動かなくても出ていく金額が毎月はっきり見えたからです。
固定費のラインが分かると、良いことがあります。稼働率と客単価の目標が、自動的に決まるからです。「今月は何室、いくらで埋まれば足りるのか」が、感覚ではなく数字で言えるようになります。
5つの数字は、会計の知識がなくても出せます。予約台帳とOTAの管理画面と通帳の、3か所で足ります。
試算表も決算書も要りません。税理士さんに聞く前に、自分の手で出せる範囲から始めてください。
下に書いた所要時間を足すと65分です。請求書や明細を探す時間は、これとは別に見ておいてください。慣れれば2回目からはもっと早くなります。
数え方をもう一度だけ確認します。この記事で数える単位は、最初から最後まで「室泊」です。部屋1室に1泊していただくことを1室泊と数え、以降この記事に出てくる数量は、すべて室泊で数えたものです。稼働率も、OTA比率も、必要な室泊数も、全部この単位でそろえてください。
気をつけるのは1か所だけです。OTAや広告の管理画面に出てくる「予約件数」は、申し込みの単位なので別ものです。2泊のご予約でも1件と表示されます。2泊のご予約は2室泊、2泊で2部屋なら4室泊に直してから使ってください。管理画面の数をそのまま入れると、必要な数が実際より少なく見えます。
なぜ室泊でそろえるかというと、お金が動く単位がそこだからです。1泊増えれば食材もリネンも清掃も1泊分増えます。申し込みの件数では、この増え方をとらえられません。
単位が変わるのは客単価だけです。客単価は人数で割るので、こちらは「人」で数えます。あとで室泊数と比べるときは、いったん金額に直してから戻します。混ざりやすいのは、ここ1か所だけです。
先月のぶんで、手元にそろえるものを先に並べます。中心になるのは5つですが、穴を見分けるところで補助の数字を少しだけ使います。あとで探し回らずに済むように、ここに全部書き出しておきます。
先月の1ヶ月分だけで構いません。順番に出していきます。
4番を、数字を入れて通してみます。先月の総売上が600万円で、室泊数が120だったとします。600万円 ÷ 120で、1室泊あたりの売上は5万円です。
次に費用です。予約サイトの手数料・決済の手数料・食材費・リネンと清掃・臨時のアルバイト分を先月ぶんだけ足したら、合計360万円だったとします。360万円 ÷ 120で、1室泊あたり3万円です。
5万円 − 3万円で、1室泊あたりの粗利は2万円になります。この2万円が、このあと何度も出てくる数字です。
この費用の合計は、宿泊にかかる分と料理・飲料にかかる分の2列に分けて足してください。分けておくと、宿泊の粗利と料理・飲料の粗利が別々に出ます。合計は同じ2万円ですが、どちらで薄くなっているかが見えます。
1泊2食付きのプランだと、売上の内訳が台帳に残っていないことがあります。その場合は、素泊まりの料金を物差しにしてください。自分の宿の素泊まりプランの料金を宿泊側に置き、プラン料金との差額を料理・飲料側にします。素泊まりプランを出していないなら、近隣の同じくらいの宿の素泊まり相場でも構いません。
費用のほうも同じ2つに分けます。食材と飲料の実額、調理場の臨時人件費を料理側に置き、リネン・清掃・水道光熱の変動分を宿泊側に置いてください。ここまでそろうと、宿泊と料理・飲料それぞれで「売上 − 変動費」が出せます。
ここで一番大事なのは、配る金額の正しさではありません。一度決めた配り方を、毎月動かさないことです。宿泊側に置く金額を1つ決めて、紙に書いて固定してください。月ごとに変えると、粗利が動いた理由が「宿の実力」なのか「配り方を変えたから」なのか分からなくなります。
費用のほうも、売上と同じ月にそろえてください。3月に泊まっていただいたぶんの粗利を見るなら、費用も3月に使った分で計算します。請求が4月に来た食材費も、3月に使ったのなら3月側です。ここをそろえないと、料理の粗利が月によって跳ねます。
この配り方は、厳密な会計とは違います。それでも、ルールを固定して同じ月でそろえておけば、どちらで薄くなっているかの当たりはつきます。プランの中で料理にいくら充てているつもりなのかを、自分で決め直す作業でもあります。
ここで「料理の粗利がほとんど残っていない」と分かる宿は、少なくありません。夕食を良くするほど評判は上がるので、気づきにくいところです。
4番だけ、拾い方をもう少し書きます。ここで止まる方が一番多いところだからです。
食材費は、食材の請求書を先月ぶんだけ集めて合計します。リネンと清掃は、業者の請求書がそのまま使えます。臨時のアルバイトの人件費は、勤務の記録から先月の支払額を拾ってください。決済の手数料は、カード会社の明細に出ています。
1つだけつまずくのが、請求の月と、泊まっていただいた月がずれる場合です。厳密に合わせようとすると止まってしまうので、最初は「先月に払った分」で割り切ってください。毎月同じやり方で出していれば、月ごとの比較には使えます。ずれが気になる規模になったら、そのときに直せば十分です。
最初から正確に出そうとしないでください。精度は、あとからいくらでも上げられます。まず紙に5つ並べることのほうが、はるかに大事です。
数字を並べただけでは、まだ判定になりません。最後に、5つのうち2つを式に入れます。
「固定費の月額ライン ÷ 1室泊あたりの粗利」。これが、今月ぎりぎり足りるための室泊数です。150と出たら「延べ150室泊が必要」という意味になります。この数を下回った月は、お金が足りていません。
例えば、固定費の月額ラインが300万円で、1室泊あたりの粗利が2万円だとします。300万円 ÷ 2万円で150室泊です。先月の予約が120室泊だったなら、30室泊足りなかったことになります。ここで使った金額は、説明のための例です。あなたの宿の数字を入れて計算してください。
残りの3つは、この式には入れません。稼働率・客単価・OTA比率は、足りなかった分がどこから漏れているかを見分けるために使います。次の見分け方で登場します。
この1本を出すだけで、言い方が変わります。「今月は厳しかった」が「今月は30室泊足りなかった」になるからです。足りない量が分かれば、次は漏れている場所を探します。
1つ、正直に断っておきます。この式は、税理士さんが出す損益分岐点の計算とは別のものです。本来はもっと丁寧に費用を分けますし、返済の扱いも変わります。
それに、この1枚には入っていない支出があります。数年に一度の大規模な修繕、設備の入れ替え、税金。どれも金額が大きく、月ごとの計算には乗ってきません。ですから「この式で足りている=会社が安全」ではありません。ここで出しているのは、あくまで簡易的な月次の目安です。
それでも、月ごとの目安には値打ちがあります。毎月同じやり方で出していれば、悪くなっているのか良くなっているのかが分かるからです。大きな支出まで含めた本当の資金繰りは、この紙を持って税理士さんに相談してください。話が早く進みます。
先ほど出した5つを、上から順に突き合わせます。ここで当たりをつけて、次の換算で決着させます。
紙を1枚用意して、上から順に埋めてください。右の例は、この記事でずっと使っている宿の数字です。
AからIまでが基本です。ここまでで「足りているか」「何室泊足りないか」が出ます。時間がなければ、ここで止めても意味があります。このあとのJからNは、その差をどこで埋めるかを決める応用編です。
Iがマイナスなら、先月は足りていました。プラスなら、その数だけ届いていません。ここから先は、その差をどこで埋められるかを見ます。
「差が大きい」「比率が高い」では、人によって読み方が変わります。そこで、5つの穴を全部「室泊数」に直します。ものさしをそろえると、順番が決まります。
大事な決まりごとが1つあります。ここで出すのは全部「理論上の上限」です。どこまで頑張れそうかという見立ては入れません。上限にそろえておくと、強気な人と弱気な人で数字が動かなくなります。
上限は、先月の実績だけで決まります。使うのは、先ほど出した「足りない室泊数」です。例に合わせて、30室泊足りなかったとして進めます。
5行も、同じ紙の続きに書き写してください。
J:稼働率の上限=先月の空室数(__室泊/例 40室泊)。K:客単価の上限(__室泊/例 10室泊)。L:OTA手数料の上限=先月の手数料の合計 ÷ F(__室泊/例 15室泊)。M:広告費の穴=(広告費 − 広告経由の室泊数 × F)÷ F、マイナスなら0(__室泊/例 0室泊)。N:固定費の上限=解約できる契約の月額 ÷ F(__室泊/例 8室泊)。
Mだけ性格が違います。広告費はGに入っているので、Mは「上限」ではなく「損していないかの確認」です。0室泊なら、広告は穴ではありません。
J から N を大きい順に並べてください。足りない30室泊を、どの行なら埋められそうかが見えます。例では稼働率の40室泊が一番大きいので、平日の空室から手をつけることになります。
ここで、はっきり書いておきたいことがあります。一番大きい行は「真の原因」ではありません。分かるのは「どこに一番大きな余地があるか」だけです。上限がどれくらい現実に近いかは、行によって違います。空室の数はほぼ確実な上限ですが、OTA経由を全部直販に移すのは現実には起こりません。
それでも、この比較には値打ちがあります。感覚で「たぶん単価かな」と決めるより、桁の大きさが分かるからです。上限で10室泊しかない行を先に触っても、30室泊は埋まりません。まず消せるのは、この種の選択肢です。
もう1つ注意があります。5行は足し算できません。同じ予約に、稼働率の改善も手数料の削減も重なって効くからです。合計が30室泊を超えたからといって、埋まると考えないでください。
使い方はこうです。一番大きい行から手をつけて、翌月にもう一度この計算をやり直す。1周回すごとに、上限の見積もりが実態に近づきます。1回で正解を当てにいかず、月ごとに削っていくものだと思ってください。
上の見分け方と、だいたい同じ行を指しているはずです。まるで違う行を指した場合は、どこかの数字の取り方が違っています。もう一度、粗利から数え直してください。
5行の上限を全部並べても30室泊にまるで届かないなら、打ち手の問題ではありません。そのときは、事業の形そのものを見直す話になります。
この見分け方には、業界の平均値を使っていません。自分の宿の数字どうしを突き合わせるだけです。
理由があります。「稼働率は何%あれば合格か」は、部屋数でも、料理の出し方でも、借入の状況でも変わります。他所の平均と比べても、自分の宿の打ち手は決まりません。決まるのは、必要な室泊数と実際の室泊数の差を見たときです。
5つが1枚に並ぶと、見え方が変わります。「なんとなく厳しい」が「ここが穴だ」に変わるからです。ここまで来れば、次に何をするかは自分で決められます。
私たちは5つを出したあと、1室泊あたりの粗利を確かめてから稼働率を埋めにいきました。粗利の上限を先に決めておかないと、埋めた分だけ損が増えるからです。
やったことは、奇策ではありません。順番だけを守りました。
この順番で進めた結果、売上は前年同月比で240%になりました。この240%は、去年のある1ヶ月と、その前年の同じ月を比べた数字です。1年を通した平均ではありません。
あわせて出している「最高の月商1,100万円」と「最高ROAS1,200%超」も、いずれもピークの月の数字です。毎月この水準だったわけではありません。比較元の売上額や月ごとの推移は、宿が特定されるため公開していません。ピーク値だけを並べていることは、そのままお伝えしておきます。
広告費は、この期間を通して月額30万円でした。
この数字がいつのものかを、正直に書いておきます。240%は、正式な事業承継の前、外部からのサポートという立場で現場に入っていた時期の実績です。会社としてこの旅館を正式に引き継いだのは、2026年7月です。承継の手続きそのものに、数字を動かす力があったわけではありません。動かしたのは、5つを出して穴から順に直したことです。
誤解のないように書いておきます。「5つを出したから240%になった」とは言いません。240%は、広告・SNS・公式LINEを含む複数の打ち手が積み上がった結果です。5つの数字がやったのは、そのうちどれから手をつけるかの順番を決めたことだけです。順番を決めるところが最初にあった、という話として読んでください。
同じ順番は、旅館以外でも通用しています。あるスクール事業では、広告費46万円で月商387万円になりました。北海道のホテルでは、1年で売上が約6倍になりました。業種は違いますが、数字を分けて出し、粗利から広告費を逆算するという型は同じです。
集客そのものの手順は「旅館の集客方法まとめ(自社旅館でやって効いた順)」にまとめています。この記事では、その手前にある「どこが穴か」の話に絞っています。
ここでもう一度、お断りを書いておきます。譲渡の対価・借入の残高・修繕にかかった費用・客室ごとの売上も、この記事では公開していません。宿が特定されてしまうことに加えて、契約の相手がいる数字だからです。載せているのは、出せる数字だけを実測のまま並べたものです。
そのぶん、手順のほうは何も隠していません。5つの出し方も、必要な室泊数の式も、穴の見分け方も、私たちが実際に使っているものをそのまま書いています。
数字を出せば必ず立て直せる、とは書けません。数字では動かせないことが、現場には起きるからです。
先月、温泉の設備に重い不調が見つかりました。修理には費用も時間もかかり、再開の見通しが立たなくなりました。
すでにいただいていたご予約は、全件お断りしました。返金は全額です。公式LINEとメールで、1件ずつご連絡しました。
このとき、稼働率も客単価も粗利も、何の役にも立ちませんでした。数字は「直せる場所」を教えてくれます。ですが、直せない場所があることまでは教えてくれません。
営業の再開時期は、いまのところお約束できる段階にありません。それでも、この記事を書いています。数字を出したから助かった話だけを並べるのは、誠実ではないと考えているからです。
「駅から遠いから厳しい」と考えて、値下げで埋めようとする。これは向いていない打ち手です。
値下げは、たしかに稼働率を上げます。ですが同時に、1室泊あたりの粗利を削ります。粗利が残らない状態で埋めても、赤字が増えるだけです。穴4を先に確かめてほしいのは、この順番を間違えないためです。
立地は変えられません。変えられるのは「誰に向けて、何を伝えるか」のほうです。人が少ない場所の宿でも数字は成り立つのかについては「限界集落・過疎地でも事業は成り立つのか」に、1年分の数字で書いています。
それでも埋まらないときは、固定費のラインを下げるか、事業の形そのものを変えるかの検討に移ります。承継や譲渡も、選択肢のひとつです。逃げではありません。私たちの支援の中身は「事業再生・事業承継の支援」のページに書いています。
最後に、正直なことを書きます。私も、この宿に関わり始めた頃は、5つとも即答できませんでした。売上は言えるのに、1室泊でいくら残るかは言えない。その状態から始まりました。
紙に5つ書き出すのに、1時間もかかりませんでした。明日、その5つを書き出してみてください。「厳しい」の中身が、少しだけ形になります。
多くの宿で同じことが起きています。ただ、原因まで同じとは限りません。人手不足なのか、手数料なのか、固定費なのか。厳しさの中身は宿ごとに違うので、まず自分の宿の数字で切り分けることをおすすめします。
出す順番でいうと、稼働率と客単価の2つからで十分です。稼働率は平日と週末に分けて、客単価は宿泊料と料理・飲料に分けて出します。この2つを分けるだけで、埋まっていないのか、単価が低いのかが分かれます。ただし、直しにいく前には1室泊あたりの粗利も出してください。
直す順番でいうと、私たちは稼働率を先に選びました。空いている日を埋めるほうが、単価を上げるより早く数字が動くからです。ただしその前に、1室泊あたりの粗利だけは確かめてください。粗利が残らない状態で埋めると、埋めた分だけ赤字が増えます。
決まった合格点はありません。部屋数も、料理の出し方も、借入の状況も宿ごとに違うからです。代わりに「固定費の月額ライン ÷ 1室泊あたりの粗利」で必要な室泊数を出してください。その室泊数に届いているかどうかが、あなたの宿の合格点です。
固定費のラインを下げるか、事業の形そのものを変えるかの検討に移ります。承継や譲渡も選択肢のひとつです。判断の材料は「廃業を決める前にできること」の記事にまとめています。
5つの数字を出したものの、次に何をすればよいか決まらない。そんな段階のご相談を承っています。私自身が廃業寸前の宿を引き継いだ当事者として、実感をもとにお話しします。支援の中身は「事業再生・事業承継の支援」のページをご覧ください。
ご相談は無料です。1営業日以内にご返信します。無理な営業はしません。