後継者がいない。跡継ぎが見つからない。子や親族に継ぐ意思がない。そう悩んでいる旅館のオーナーへ。そして、いつか旅館を継いでみたいと考えている、外部の方へ。私は、血縁も地縁もない外部から、廃業寸前だった創業140年の旅館を継いだ当事者です。後継者をどこで探すか、継ぐ相手に何を先に見せるか、継ぐ人を何で見極めるか。両方の側から、正直にお伝えします。
後継者が見つからずに悩んでいる方に、長い前置きは要らないと思います。結論から先にお伝えします。後継者を探すときにできることは、主に6つです。順番に並べています。
ここから先は、私が一つの旅館と向き合った、実際の記録です。うまくいった話だけでなく、正直に苦労した部分も、まだ終わっていない部分も書きます。
探し方の話をする前に、私がどういう立場でこれを書いているかを、先にお伝えします。ここが抜けると、ただの一般論になってしまうからです。
私が継いだこの旅館は、家業ではありません。生まれ育った土地の宿でもありません。もともとは、縁もゆかりもない場所でした。学生の頃に、知り合いの知り合いの紹介で、この宿と出会いました。そこから外部の協力者として関わり続け、正式に事業承継が完了したのは、2026年7月です。
つまり私は、後継者を「公募して選んだオーナー」ではありません。逆に、血縁も地縁もない外部から「継いだ側」です。だから、探すオーナー側の視点も、継ぐ人を選ぶときに何が効いたかも、継がれる側の実感として持っています。この両方を、同じ一人の中に持っている人は、あまりいないと思います。だから、この記事を書いています。
私は、地方の再興を仕事にしてきました。都心のコンサルティングによって地方が消費されていく動きや、「田舎だから無理」と可能性を摘む空気に、ずっと違和感を持ってきました。ただ、支援する側に立ち続けるだけでは、証明できないことがあります。だから、廃業寸前だった宿を、自分でリスクを背負って引き継ぎました。後継者不在という言葉の重さは、当事者として知っているつもりです。
「後継者がいない」と一言で言っても、中身は同じではありません。私が見てきた範囲では、大きく3つの状態に分かれます。自分がどれに近いかで、次の一手が変わります。
この3つは、対処の順番が違います。1番の状態なら、探す範囲を外に広げる話が先です。2番なら、条件を整理して見せる話が先です。3番なら、まず数えることが先です。
そして、実は多くの旅館が、気づかないうちに3番の状態にいます。「もう後継者なんて見つからない」という結論を、棚卸しをしないまま出してしまっている。私がこの記事で一番お伝えしたいのは、探す前にやることがある、ということです。
後継者と聞くと、多くの方が「子か、親族か」と考えます。ですが、探す先は、それだけではありません。私が知る範囲で、後継者を探せる先を整理すると、大きく4つになります。
正直に書いておくと、私は後継者を公募したわけではありません。長い付き合いの中で、自然に継ぐことになった側です。だから「必ずこの窓口を使えば見つかる」とは言えません。
ただ、当事者として強くお伝えできることが、一つあります。探す先を、血縁と地縁の中だけに限定しないことです。「うちには継ぐ人がいない」と言うとき、多くの場合、それは「身内の中に」いない、という意味です。外まで見れば、旅館を継ぎたいと考えている人は、思っているよりいます。私も、その一人でした。
探し先の話に、もう少しだけ触れておきます。先ほどの公的な窓口には、継ぎたい人と、後継者を探す事業者をつなぐ仕組みもあります。M&Aの仲介会社に相談するという道もあります。私自身は、そうした公募ではなく、長く関わっていた縁から継ぐことになりました。どのルートで探すにしても、共通して効くことが一つあります。継ぐ側が判断できるように、残っているものを見せられる形にしておくことです。
もう一つ、大切なことがあります。それは、後継者は「探す」だけでは決まらない、ということです。継ぐ側が「やろう」と決められるだけの材料が、そろっている必要があります。その材料が、次の話です。
継ぐ側が「やる」と決められるのは、その宿に何が残っているかが見えたときです。これは、私が継いだ側だからこそ、はっきり言えます。
後継者を探すとき、多くのオーナーは、良いところを見せようとします。景色がいい、料理がいい、歴史がある。もちろん、それも大切です。ですが、継ぐ側が本当に知りたいのは、夢ではなく現実です。建物はあと何年もつのか。借入はどうなっているのか。許認可は引き継げるのか。ここが見えないと、どんなに魅力的でも、踏み切れません。
だから私は、探すオーナー側にこそ、残っているものの棚卸しをおすすめします。良い部分だけでなく、悪い部分も含めて、一枚の紙に並べる。継ぐ側は、その正直さを見て「この人となら話せる」と感じます。隠された欠点が後から出てくるより、最初から全部見えているほうが、ずっと信頼できるからです。
これは、以前に書いた「棚卸し」の考え方と、同じ根っこにあります。継ぐか継がないかを決める前に、まず何が残っているかを数える。くわしくは「「地方継承」という考え方」に書いています。この記事では、その棚卸しを「継ぐ相手に見せる材料」として使う話をします。
私が継ぐと決める前に、実際に確かめたものを挙げます。この旅館は、地方の温泉地にある、創業140年、全9室の宿です。私が本格的に関わり始めた時点で、3ヶ月休館していました。人の手が離れて、厨房の壁も床も機材も、カビにやられていました。電気も止まっていました。
正直、見た目はひどい状態でした。ですが、一つずつ数えていくと、残っているものは、思っていたよりありました。
この5つが見えた時点で、私は「これは継げる」と判断できました。逆に言えば、この棚卸しがなかったら、あのカビだらけの厨房を見た瞬間に「もう無理だ」と結論を出していたと思います。
後継者を探すオーナーにお伝えしたいのは、まさにここです。継ぐ側は、悪い部分を見て逃げるのではありません。悪い部分と良い部分の両方が見えて、初めて判断できるのです。残っているものを数えて見せる。それが、後継者探しの一番の土台になります。
ここは、探すオーナー側にも、継ぎたい外部の方にも、両方に関わる話です。継ぐ人、あるいは現場を任せる人を、何で見極めるか。私は、能力より先に「志」を見ました。
私が言う「志」は、大きな夢を語れることではありません。頼まれていないのに、手が動くかどうか、くらいの意味です。
実際の例をお話しします。休館していた3ヶ月、待っていてくれた元スタッフ2人に、私は宿の運営を正式にお願いしました。一人には支配人として全体の段取りを、もう一人には採用と発信を任せました。このとき私が先に見たのは、接客の腕でも、経歴でもありません。
この2人は、宿が止まっている間、頼まれてもいないのに手を動かしていました。一人は、露天風呂の開け閉めのチェックリストや、緊急時の対応の叩き台を、自分で書いて送ってきました。もう一人は、社員を何人置き、どんな人と働きたいかを言葉にした採用の資料を、自分から作っていました。宿がいつ開くかも決まっていない時期に、です。
この「頼まれる前に手が動く」を、私は志と呼んでいます。能力は、後からでも伸びます。ですが、放っておいたときに手が止まる人か、動く人かは、なかなか変わりません。だから、先に志を見ます。継ぐ人を見極めるときも、同じです。継いだ後、うまくいかない時期に踏ん張れるかどうかは、能力より、この志で決まると感じています。
くわしい考え方は、以前に書いた記事に整理しています。あわせて読むなら「旅館の経営コンサルを選ぶとき、私が見る5つのこと」も、人を見極める観点として近い話です。
私が実際に経験した、あるいは近くで見てきた、後継者探しでつまずきやすいポイントを3つ共有します。合わせて、私が取った対処法も書きます。
ここまで、後継者を外に広げて探す話をしてきました。ですが、外部への承継が、いつも正解だとは思っていません。正直に、向かない場合も書きます。
まず、廃業を選ぶこと自体は、逃げではありません。長く続けてきた宿を、次の世代に負担を残さない形で終える。それも、誠実な選択の一つです。借入や保証の状況によっては、無理に承継するより、清算という形で整理するほうが、後悔が少ない場合もあります。
そして、外部への承継には、外部だからこその難しさがあります。宿のことを一番知っているのは、やはり中にいた人です。まったくの外部が継ぐと、地域との関係も、常連さんとの関係も、一から作り直しになります。私自身、長い時間をかけて関わり続けたからこそ継げたのであって、いきなり外から入って継いだわけではありません。
もう一つ、正直に書いておきます。継ぐと決めてからも、お金はかかります。専門家の費用、資産や権利を調べる調査の費用、システムの維持費、残ってくれた人への給料。私も、これを捻出するために、本業をぎりぎりまで回した時期がありました。継承は、契約が終わって「はい完了」という話ではありません。そこからが本番です。
だから、後継者を探す前に、廃業という選択肢も一度は同じ土俵に乗せて比べることをおすすめします。廃業と承継、どちらを選ぶかの入口については、「旅館の廃業・事業承継を考える前に」にくわしく書いています。
もし、後継者が見つからずに悩んでいるなら、探す前に一度だけ、残っているものを数えてみてほしいと思います。建物、道具、温泉の権利、許認可、常連さん、待っている人。紙に書き出すと、思っているよりゼロじゃないはずです。
そして、候補を身内の中だけで探さないでください。外まで見れば、旅館を継ぎたいと考えている人はいます。私も、その一人でした。良い部分と悪い部分の両方を、正直に見せる。それが、継ぐ相手との信頼の始まりになります。
血縁も地縁もない場所でも、旅館を継ぐことはできます。私がそうでした。ただ、いきなり継ぐのではなく、まず関わることから始めるのを、私はおすすめします。私も、長い時間をかけて外部の協力者として関わり、その先で継ぎました。
継ぐ前に確かめるべきは、良い部分ではなく、残っているものです。建物はもつのか。許認可は引き継げるのか。待っていてくれる人はいるのか。そして、リスクを引き受ける覚悟が、自分にあるか。型は真似できますが、この覚悟だけは、誰も肩代わりできません。
私が継いだこの旅館は、営業再開を9月か10月に予定しています。私が外部サポートという立場で深く関わっていた頃、廃業寸前だった売上を、前年同月比240%まで戻した時期がありました。ただ、この数字は、正式な承継の前に作った、去年の実績です。承継後、本番でお客様を迎えてからの数字は、まだ計測していません。景気のいい数字を先取りするより、「まだ計測前です。本番で取れたら、また書きます」と正直に言う方を選びます。
後継者を探すのも、継ぐのも、重い決断です。どちらを選ぶにしても、一人で抱え込まないでほしいと思います。私は、廃業寸前の旅館を実際に外部から継いだ側として、お話しできることがあります。うまくいったことも、まだ分からないことも、正直にお伝えします。
後継者を探す前に、まず自分の宿に何が残っているかを数えることをおすすめします。建物、温泉の権利、許認可、常連さん、働いてきた人。これを一覧にできると、継ぐ側が判断しやすくなります。私自身、継ぐと決める前に確かめたのは、この残っているものでした。
できます。後継者を探す先は、血縁や地縁の中だけではありません。一緒に働いてきた人、まったく縁のなかった外部の人、公的な相談窓口という選択肢があります。私も、血縁も地縁もない外部から、この旅館を継いだ側です。まずは、探す範囲を身内の中だけに限定しないことをおすすめします。
きれいな事業計画より先に、残っているものの棚卸しを見せることをおすすめします。建物の状態、温泉や許認可の引き継ぎ、常連さんの存在。継ぐ側が一番知りたいのは、夢ではなく現実です。私も、良い部分と悪い部分の両方が見えたから、継ぐと決められました。
できます。私がそうでした。家業でも、生まれ育った土地の宿でもありません。もともとは、縁もゆかりもない場所でした。長い付き合いの中で関わり続け、正式に引き継いだのは2026年7月です。血縁や地縁がなくても、継ぐことはできます。ただし、リスクを引き受ける覚悟だけは、誰も肩代わりできません。
一概には言えません。私の場合、相手と出会ってから正式に引き継ぐまで、長い時間がかかりました。契約の手続きだけでなく、信頼を積み重ねる時間が含まれるからです。急ぐほど、後になって想定外のことが出てきます。時間には、早めに動き始めることで対応するのがおすすめです。
後継者が見つからないというご相談、外部への事業承継のご相談、現状の棚卸しのご相談を承っています。私自身が、血縁も地縁もない外部から旅館を継いだ当事者として、実感をもとにお話しします。支援内容のくわしい説明は「旅館・宿の集客支援」のページをご覧ください。
ご相談は無料です。1営業日以内にご返信します。無理な営業はしません。