旅館・ホテルの集客を業務委託する前に、宿の名義で持っておくもの(アカウント・計測・解約後に残るもの)

創業140年の旅館の外観。集客を業務委託しても、アカウントと名簿は宿の名義で手元に残す

宿の集客(マーケティング)を外の会社に業務委託しようか考えている旅館・ホテルの方へ。頼むと決める前に確かめてほしいのは、アカウントと計測と制作物を誰の名義で持つかです。名義しだいで、解約したあとに宿へ残るものが決まります。私たちは長野県高山村の旅館「松川館」を自分たちで運営しながら、北海道の宿などの集客を引き受けています。施策それぞれの手順は「旅館・ホテルの集客方法9つと、立ち上げる順番|長野と北海道の宿でやっている全手順」にまとめました。

業務委託しても、アカウントと計測と制作物は宿の名義で持っておく

宿の集客を外の会社に業務委託するときに、いちばん先に決めてほしいことがあります。どこまで任せるかよりも前に、アカウントと計測と制作物を誰の名義で持つかです。

「名義」=そのアカウントの持ち主が誰かということです。宿の名義にするとは、次の3つをそろえることです。契約者を宿(または宿の会社)にする。宿が管理するメールアドレスで登録する。管理画面のいちばん上の持ち主(オーナー)を宿にする。そのうえで、支援する会社には運用の権限だけを渡します。

この形にしておくと、契約が終わった日に権限を外すだけで済みます。集めた数字も育てた名簿も、宿の手元に残ります。

宿を営む側でも集客を引き受ける側でも、宿の名義で持っておくものは次の7つです。

1
OTAのアカウント。楽天トラベルやじゃらんのような、宿泊の予約サイトの宿のアカウントです。
2
Meta広告のアカウントとピクセル。「ピクセル」=サイトに貼る計測用のコードです。
3
SNSのアカウント。InstagramやThreadsの、宿のアカウントです。
4
公式LINEと、そこにたまる名簿。登録してくださった方の一覧です。
5
Googleビジネスプロフィール。Googleマップに出る、宿の情報の枠です。
6
計測。アクセス解析(GA4)と広告のピクセル、そこにたまるデータです。
7
公式サイトと、そのデータ一式。文章・写真・予約の仕組みです。
集客を業務委託するときの名義の持ち方。OTA・広告・SNS・公式LINE・Googleマップ・計測・公式サイトの7つは宿がオーナーとして持ち、支援会社には運用の権限だけを渡す図

この7つは、どれも宿の資産です。業務委託とは、この資産を宿に残したまま回す作業だけを外へ出すことです。

宿の集客は、OTAも広告も公式LINEも全部つながってはじめて効きます。どれか1つを外の会社に預けて名義まで渡すと、その1つが抜けたときに流れが途切れます。だから、作業は任せても名義は宿に残します。

名義を宿にするのは、契約を切るためではありません。長く付き合える相手ほど、宿の名義を勧めてきます。解約のときに宿が困らない形は、続けるときにも宿が主役でいられる形だからです。

支援会社の名義で作ると、契約が終わった日に数字ごと宿の手を離れる

支援する会社の名義でアカウントを作ると、そのアカウントの持ち主は支援会社です。契約が終わった日に、アカウントを消すのも宿のログインを外すのも、持ち主の支援会社が決められます。引き継いでもらえるかどうかも支援会社が決めることで、宿の側からは決められません。

広告のアカウントが支援会社のものだと、解約と同時に過去の配信の記録が見えなくなります。どの広告に反応があったかという学習も、まとめて手元から離れます。

SNSのアカウントが支援会社のものだと、フォロワーごと引き継げません。集めたクチコミや投稿も、宿のものとして残りません。

これは、宿が悪いのではありません。名義を宿にしていなかっただけで、積み上げた資産が途中で途切れます。次の会社に頼み直すとき、またゼロから作り直すことになります。

反対に、名義を宿にしておけば、会社を変えても新しい担当に権限を渡すだけで翌日から続きを回せます。

解約の日に宿へ残るものは、名義によって次のように分かれます。

施策宿の名義のとき(解約後)支援会社の名義のとき(引き継いでもらえなかったとき)
OTA掲載とクチコミが残る掲載ごと作り直しになる
Meta広告アカウントと学習が残る配信の記録ごと手を離れる
SNSフォロワーごと残るフォロワーを引き継げない
公式LINE名簿が残る名簿ごと手を離れる
計測(GA4)過去のデータが残る前年との比較ができなくなる
公式サイトデータ一式とドメインが残る渡されないことがある
上は宿の名義で持ったときの原則です。公式サイトは、ドメイン・文章・写真・元データ・予約システムで返却の可否が変わります。契約書で1つずつ確かめます。道具に紐づく設定(配信のシナリオなど)は、道具を変えると書き出しや作り直しが要ります。

私たち自身も、長野の松川館で集客を引き受けた最初の1か月は作業を回せませんでした。やることはわかっていて、書き出したリストもありました。

それでも宿泊の予約が入っていると、机に向かう時間は最後まで残りません。気づけば、月末になっていたこともあります。

この経験から、仕組みと名義は最初に宿の側へそろえておくと決めました。走り出してから名義を移すのは、配信や計測を一度止めることになるからです。

解約したときの違い。宿の名義なら権限を外すだけでアカウント・数字・名簿・制作物が宿に残り、支援会社の名義だと契約終了日に数字ごと消える比較図

OTAのアカウントは宿の名義で契約し、運用の権限だけを渡す

OTAは、まだ宿を知らないお客様と出会う入口です。「OTA」=楽天トラベルやじゃらんのような、宿泊の予約サイトのことです。

OTAには、値段で選ぶ方と本当に気になって調べる方がいます。どちらも宿の予約を支える大切なお客様です。この入口のアカウントも、宿の名義で持ちます。

OTAのアカウントを宿の名義で契約しておくと、掲載の内容もクチコミも宿に積み上がります。

私たちが集客を引き受けている宿では、OTAを宿の名義のアカウントで契約しています。私たちは運用の担当者として、必要な権限だけをもらって入ります。プラン名づくりや料金の見直しは私たちがおこない、契約そのものは宿の名義のまま残します。

複数のOTAの空室をまとめる「サイトコントローラー」も、宿の名義で契約します。これも支援会社の名義にすると、解約のときに在庫の管理ごと止まるおそれがあるからです。

OTAの効き方は立地で変わりますが、名義を宿にしておく考え方はどの立地でも同じです。

手数料そのものの下げ方や直販の増やし方は、この記事とは別の話になります。「OTA依存から抜け出すには|手数料の計算例と直販を増やす手順」に書きました。

Meta広告のアカウントとピクセルは、宿の名義で作る

広告も、Meta広告のアカウントと計測に使うピクセルを宿の名義で作ります。

「Meta広告」=InstagramやFacebookに出す広告のことです。「ピクセル」=サイトに貼る計測用のコードです。

広告のアカウントを宿の名義で作っておくと、過去の配信でたまった学習(どの広告に反応があったか)も効果の記録も宿に残ります。ピクセルを宿の名義にしておくと、予約の手前の動きを長く追えます。

私たちが集客を引き受けている宿では、広告のアカウントとピクセルを宿の名義で作っています。私たちはパートナーとして、運用の権限だけをもらって配信します。月にいくら使うかは、宿が決めます。

広告の効果は、予約の件数だけでは見えにくいものです。予約の手前の動きと、前年の同じ月の売上をあわせて見ます。「予約の手前の動き」=予約ページを開く、空室を調べるといった動きのことです。

この見方ができるのも、計測が宿の名義で残っているからです。アカウントを支援会社に預けていると、契約が切れた月から前年との比べ方ができなくなります。

広告は、興味を持った方に段階を分けて届けます。一度サイトを見た方へもう一度届けるにも、宿の名義のピクセルが要ります。ピクセルを支援会社に預けると、この追いかけも会社を変えた日に止まります。

公式LINEの名簿は、宿の公式アカウントに積み上がる資産

公式LINEは、泊まった方とつながり続ける名簿になります。名簿があれば、次の楽しみ方を宿から直接届けられます。この名簿は、宿のLINE公式アカウントに積み上がります。

配信の仕組みやステップ配信は、支援する会社が作れます。それでも、名簿そのものは宿のアカウントに残る資産です。だから、公式LINEのアカウントも宿の名義で持ちます。

私たちが支援している北海道の宿は、全3室の古民家の宿です。ここでは、チェックインのときにほぼ全員へ登録をご案内しています。登録とあわせて、記入フォームにお名前と地域を書いていただいています。

記入フォームへの記入は、2026年6月の時点で499件でした。記入フォームと配信は私たちが作り、登録をお願いする一声は宿の方が担っています。

私たちが運営する松川館でも、泊まった方の名簿が公式LINEにたまっています。この名簿から、新しいプランの案内を直接お送りできます。名簿が宿の手元にあるから、広告費をかけずに次の案内を届けられます。

この名簿を支援会社の名義に置いてはいけません。名簿ごと預けてしまうと、解約のときにいちばん大切な資産が手元に残らないからです。

公式LINEを運用する道具には、Lメッセージ(エルメ)やUTAGEがあります。LINE Harnessという無料の道具もあります。どの道具を使っても、細かい設定は道具に紐づきます。名簿は宿のLINE公式アカウントに残ります。始め方は「旅館・ホテルの公式LINEの始め方|開設から配信までの手順・入口7か所・あいさつ3通・月2回の配信」に書きました。

GoogleマップとGA4は、宿の名義をオーナーにして権限を渡す

Googleマップと計測も、宿の名義で持ちます。場所や宿の名前で検索して出てくるだけで、宿にとっては強い入口になります。

「Googleビジネスプロフィール」=Googleマップに出る、宿の情報の枠です。これは、宿のGoogleアカウントをオーナーにして作ります。支援する会社には、管理者の権限だけを渡します。

私たちが集客を引き受けている宿では、Googleビジネスプロフィールのオーナーを宿のGoogleアカウントにしています。写真の整備や投稿、クチコミへの返信の文面は私たちが手伝います。低い評価を受けて何を直すかは、宿の現場が決めます。

低い評価への返信は、お客様がよく見る場所です。今後どう直すかを宿の言葉で返すと、読んだ方が安心して来られます。何を直すかは宿にしか決められないので、オーナーは宿が持ちます。

計測も、同じ形で持ちます。アクセス解析のGA4と広告のピクセルを、宿の名義のアカウントにまとめます。「GA4」=Googleが無料で配っているアクセス解析の道具です。各社には、同じ計測を見る権限だけを渡します。

Googleマップは、最近も写真やお知らせが投稿されているだけで信用になります。営業時間は書いてあっても、本当に営業しているか分からない宿は少なくありません。宿のオーナー権限で投稿を続けていれば、ちゃんと営業していると伝わります。

計測を会社ごとにばらばらに持つと、どの施策で予約が増えたのかを1か所で確かめられません。宿の名義で1つにまとめておくと、会社を変えても、どの施策で予約が増えたかを宿のGA4で続けて比べられます。

契約の前に、名義・権限・解約時の返却を書面で決める

ここまでの名義の持ち方は、契約の前に書面で決めておきます。私たちは、次の5つを契約書に書いています。

1
アカウントを、宿の名義で作る。OTA・広告・SNS・公式LINE・Googleの持ち主を、宿にします。
2
支援会社には、権限だけを渡す。運用に必要な範囲だけにします。
3
計測を、宿の名義で1つにまとめる。GA4とピクセルを、宿の名義で持ちます。
4
契約が終わったら、制作物とデータを渡す。公式サイトのデザイン・文章・写真・元データを、宿の手元に移せる形にします。
5
やめるときの手順を、先に決める。何か月前に伝えれば終えられるかと、権限の外し方を書きます。

施策ごとに、宿の名義で持つものと支援会社に渡す権限を一覧にしました。私たちがお受けするときの形です。

施策宿の名義で持つもの支援会社に渡す権限
OTA宿名義の契約・サイトコントローラープランと料金を直す運用の権限
Meta広告広告アカウント・ピクセル配信するパートナーの権限
SNSInstagramとThreadsのアカウント投稿する編集者の権限
公式LINELINE公式アカウント・名簿配信を作る運用の権限
Googleマップ宿のGoogleアカウント(オーナー)投稿と返信をする管理者の権限
計測GA4・ピクセル(宿名義で1つ)同じ計測を見る権限
公式サイトデータ一式・ドメイン作り直しと更新をする権限
「ドメイン」=サイトの住所になる文字列です。これも宿の名義で持ちます。

この5つは、業務委託を受ける側にとっても続けやすい形です。名義と計測が宿にそろっていないと、引き受けた側も数字を追えません。だから私たちは、OTAの運用と自社予約の集客をセットでお預かりしています。

書面にしておくと、担当者が変わっても約束が残ります。口約束だけだと、解約のときに言った言わないでもめます。もめているあいだ、宿の集客は止まってしまいます。

頼む相手の選び方は「旅館の経営コンサルを選ぶとき、私が見る5つのこと|廃業寸前の宿を自分で継いだ側から書く」に書きました。

正直に言うと、全部を宿の名義にすると最初は手間が増える

アカウントを全部宿の名義で作ると、最初の設定の手間は増えます。宿のメールアドレスで登録し、権限を1つずつ渡す作業が要るからです。

私たち自身、名義を宿にそろえる最初のひと月はこの設定に時間を取られました。それでも、あとから名義を直すより先にそろえるほうが結局は早いです。

最初の設定と、そのあとの運用を宿の中だけで続けるのが難しい場合は、外に任せる方法もあります。任せる範囲と宿に残す仕事は「旅館・ホテルの集客代行に任せる仕事と、宿に残す仕事|予約サイト・SNS・広告などの分担表つき」にまとめています。

すでに外の会社に頼んでいる宿は、名義を次の4つで確かめられます。はっきりしないものは、支援会社に「オーナーは宿になっていますか」と聞いてください。

1
OTA・広告・SNSの管理画面を開く。いちばん上の持ち主(オーナー)が宿のアカウントかを見ます。ログインできるかではなく、持ち主が宿かを確かめます。
2
GoogleビジネスプロフィールとGA4を見る。オーナー権限が宿のGoogleアカウントにあるかを確かめます。
3
公式LINEにログインしてみる。宿のアカウントで入れるか、支援会社しか入れないかを見ます。
4
契約書で、ドメインとデータの返却を読む。公式サイトのドメインとデータを宿に戻す1行があるかを確かめます。あわせて、何をどの形でいつまでに返すのかと、返す作業の費用を誰が持つのか、写真や文章を解約後も使い続けてよいかが書いてあるかを見ます。

どれか1つでも支援会社の名義になっていたら、次の更新のときに宿の名義へ移せないかを相談してみてください。配信や計測を止めずに移せる場合もあります。

次のような宿には、この記事の持ち方は向きません。

アカウントの名義を、支援会社に全部預けてしまってよいと考えている
契約が終わるときに、数字や名簿を引き継がなくてよいと考えている
最初の設定の手間を、一切かけたくない

私が増やしたいのは、集めた数字と名簿が宿の手元に残る宿です。どこまで任せて何を名義で持つかは、いまの状態を拝見すればお伝えできます。

よくある質問

集客を業務委託すると、アカウントは誰の名義で作るのがよいですか。

OTA・広告・SNS・公式LINE・Googleのアカウントは、宿の名義で作ります。支援する会社には、運用に必要な権限だけを渡してください。宿の名義で作っておくと、契約が終わったあとは権限を外すだけで済みます。

支援する会社の名義でアカウントを作ると、何が起きますか。

アカウントの持ち主が支援会社になります。契約が終わったあとに引き継いでもらえなければ、広告の配信の記録もSNSのフォロワーも宿から使えなくなります。引き継ぐかどうかを決めるのは、宿ではなく支援会社です。

計測のデータは、どこまで宿の手元に残せますか。

アクセス解析のGA4と広告のピクセルを宿の名義で作れば、計測のデータは宿に残ります。各社には、同じ計測を見る権限だけを渡します。会社ごとに分けて持たないことで、どの施策で予約が増えたかを1か所で確かめられます。

契約が終わったら、公式サイトや名簿は宿に残りますか。

契約の前に書面で決めておけば残ります。公式サイトのデータ一式は、宿の手元に移せる形にします。公式LINEの名簿は、宿のLINE公式アカウントに残ります。

名義を宿にすると、宿の手間は増えませんか。

最初の設定の手間は増えます。宿のメールアドレスで登録し、権限を1つずつ渡す作業が要るからです。それでも、あとから名義を直すより先にそろえるほうが早いです。