ホテル・旅館の自社予約比率の考え方(OTAの予約と公式サイトの予約の役割分担)

OTAと公式サイトの役割を分けて自社予約比率を育てている、私たちが運営する創業140年の旅館の外観

自社予約比率を上げたい宿が最初にやることは、先月の予約を入口ごとに数えて、いまの比率を知ることです。そのうえでOTAは残したまま、公式サイトと公式LINEを整え、OTAで出会った方が二回目から直接予約できるようにします。

自社予約比率は、上げる数字ではなく役割を分けて育てるもの

自社予約比率とは、宿に入る予約全体のうち、公式サイトや電話など、OTA(楽天トラベルやじゃらんなどの予約サイト)を通さない予約がどれくらいの割合かを示す数字です。直販比率とも呼びます。

この比率を上げたいという相談を、よくいただきます。手数料が重いから、直販を増やしたい。私たちも宿を運営しているので、同じ課題に向き合ってきました。

自社予約比率は、OTAを削って無理に上げる数字ではありません。OTAは新規のお客様と出会う入口です。公式サイトと公式LINEは、宿を調べて選んだ方や、一度泊まった方を迎える受け皿です。入口と受け皿は、役割が違うだけで、どちらも宿を支えます。

比率を上げる正しい手順は、OTAを閉じることとは逆です。公式サイトと公式LINEを先に整え、OTAで出会った方が二回目から直接予約したくなる状態を作ります。比率は、その結果としてあとからついてきます。

自社予約比率とは何か。先月の予約を入口ごとに分けて出す

いまの比率は、先月に泊まった予約を入口ごとに分けて数えると出せます。

入口は、ふだん大きく四つに分かれます。OTAからの予約、公式サイトからの予約、電話からの予約、公式LINEやメールからの予約です。このうち公式サイト・電話・公式LINEなど、OTAを通さない予約の件数を、全体の件数で割ります。この割合が、いまの自社予約比率です。

件数で出したあと、予約金額でも同じように出すと、もう一段はっきり見えます。OTAからの予約は手数料が引かれるので、同じ件数でも宿に残るお金は直販より少なくなります。件数の比率と、お金の比率は別の数字です。お金の比率は、手数料を引いたあと宿に残るお金のうち、直販が占める割合です。

たとえば、先月の予約が全部で100件あったとします。内訳がOTAから60件、公式サイトから25件、電話から10件、公式LINEから5件だったなら、OTAを通さない直販は40件です。自社予約比率は、件数で40%になります。ここから金額でも見ます。OTAの60件には手数料が引かれるので、同じ単価でも、宿の手元に残るお金で見ると、直販の取り分は件数の40%より大きくなります。件数と金額の二つで並べると、OTAに払っている手数料の重さが数字で見えてきます。

私たちが宿の相談を受けるときは、まずこの仕分けを一緒にやります。比率を出してみると、感覚で思っていた数字とずれていることが、ほとんどです。先月はOTAが八割だと思っていた宿が、数えてみると六割だった。そういうことが実際に起こります。感覚ではなく、先月の予約台帳で数える。ここが出発点です。

仕分けの細かいやり方と、直販を増やす手順そのものは、「OTA依存から抜け出すには|手数料の計算例と直販を増やす手順」に書いています。

なぜ、比率100%を目指さないのか。OTAには二種類のお客様がいる

自社予約比率は、高ければ高いほどよい、という数字ではありません。比率を100%にするには、OTAからの予約をゼロにする必要があります。いちばん手っ取り早いのは、OTAを閉じることです。そこで何が起きるかを、先に考える必要があります。

OTAを見て予約するお客様は、大きく二種類に分かれます。一つは、値段だけで選ぶ方です。この方は宿の細かい情報まで読み込まず、安くて条件が合えばそのまま予約します。もう一つは、宿が気になった方です。この方はOTAで見つけたあと宿の名前で検索し、公式サイトを見てから予約先を決めることが多いです。

比率を上げたい宿ほど、前者の「値段だけで選ぶお客様」を軽く見がちです。ですが、この方たちがいなければ、そもそも予約の総数が足りません。値段で選ぶ方も、宿の稼働を支えてくださっている大切なお客様です。この方たちと出会う場所が、OTAです。

私たちが運営する松川館でも、一度このことを実地で確かめました。OTAで正面から戦おうと考え、料金をかなり安く設定した時期があります。それでも、予約は思ったように増えませんでした。松川館は、誰もが知る観光地の中にある宿ではありません。OTAでまず場所から選ぶお客様にとって、周辺に強い観光の目的がない宿は、いくら安くても総合評価で選ばれにくいのです。箱根のような激戦地なら、安さが決め手になることもあります。立地がそうではない宿では、値段を下げても、少し高くて観光地に近い宿のほうが選ばれました。安くした分だけ、宿に残るお金が減りました。

この経験から、私たちははっきり分けて考えるようになりました。立地が強い観光地にある宿なら、OTAで値段と条件を磨いて正面から戦う価値があります。立地がそこまで強くない宿は、OTAを入口として使いながら、二回目以降の予約を公式サイトと公式LINEで取りにいく。比率100%を目指すのではなく、役割を分けるということです。

OTAと公式サイトの役割分担の図。OTA(予約サイト)は新しいお客様と出会う入口、公式サイトと公式LINEは二回目から迎える受け皿。比率は、削って上げるのではなく役割を分けて育てる、という流れを示す図

公式サイトから予約する方は、宿を調べて選んでくださった方

公式サイトから予約する方の多くは、宿の名前で検索して、写真や料理や宿の人の思いまで読んだうえで予約しています。OTAの一覧で値段を見比べて決めた方とは、予約に至る道のりが違います。この宿に泊まりたいと思って予約してくださった方です。

この違いは、予約が入ったあとの現場にあらわれます。宿を調べて選んでくださった方は、宿のことをある程度分かったうえで来られるので、到着してからのやり取りが穏やかです。スタッフもお客様も、お互いに接しやすくなります。

お金の面でも、残るものが違います。公式サイトからの予約には、OTAの手数料がかかりません(自社の予約システムの利用料などはかかります)。手数料は契約によって変わり、クーポンや広告枠を積み増すと30%を超えることもあります。さらに、公式サイトで予約した方のメールアドレスや電話番号が、宿の手元に残ります。OTA経由の予約でも宿泊に必要な連絡先は届きますが、その連絡先を次のご案内に使うことは、OTAの規約で制限されています。連絡先が残れば、次のご案内を広告費をかけずに届けられます。

自社予約比率が上がると、手数料が減るだけにとどまりません。宿を選んで来てくださる方の割合が増え、現場が穏やかになり、次につながる連絡先が宿に貯まっていきます。この三つが同時に進みます。

私たちの宿での役割分担。松川館と北海道の宿でやっていること

松川館では、OTAは新規のお客様と出会う入口として残しています。そのうえで、来てくださった方には公式LINEに登録していただき、名簿を作っています。登録のきっかけは、チェックインのときです。宿泊台帳を公式LINEの画面で書いていただく形にしました。登録の前に、お知らせを送ることを画面でお伝えし、そのうえで書いていただいた方が友達登録されます。登録しない方は、紙の宿泊台帳で書けます。フロントで一言お願いするだけなので、宿の手間もほとんど増えません。

こうして積み上げた松川館の公式LINEの友達は、いまおよそ一万人です。新しいプランができたときに、そのお知らせを公式LINEで一斉に送ると、一回でおおよそ100万円から200万円分の予約が新しく入ります。これは、友達が一万人まで増えたからこその金額です。一万人になるまでには、何年もかけて一人ずつ登録していただきました。はじめから大きな数字が出たわけではありません。OTAを一件も削らずに、二回目以降の予約を直接いただく仕組みが、ここにあります。

もう一つ、北海道にある全3室の宿の例です。この宿では、公式サイト・検索対策・Googleマップ・Instagram・公式LINE・広告・採用ページを、私たちが一社で担当しています。まず公式サイトを作り直しました。予約ボタンの行き先を自社の予約システムにそろえ、料理の献立や客室からの眺め、宿を営む人の思いまで、OTAより厚い情報を載せました。宿の名前で検索して来た方や、SNSで宿を知った方が、迷わずその場で予約できる状態に整えたということです。

公式サイト直販の売上 4.7倍 2025年7月 61万円 → 2026年7月 289万円(2026年8月28日集計)
1か月の予約数 8→35件 同じ宿の直販の予約数(2025年7月と2026年7月の、それぞれ1か月)
公式LINEの友達 約1万人 松川館・告知の配信一回で約100〜200万円分の予約
私たちが運営・支援している宿 · OTAを残したまま直販を育てた実際のデータ

北海道の宿の直販の売上が一年で4.7倍になったのは、公式サイトを含む七つの施策をあわせて回した結果です。OTAで出会い、検索やSNSで宿を知り、公式サイトで予約し、公式LINEで二回目につなぐ流れです。

比率を上げるのは、OTAを削ることではなく受け皿を作ること

比率を上げるために作る受け皿は、主に二つです。

一つ目は、予約がそのまま入る公式サイトです。宿の名前で検索して来た方が、料理や客室や宿の人の思いまで読んで、その場で予約できる状態にします。予約ボタンの行き先が自社の予約システムになっていること、載せる情報がOTAより厚いこと。この二つがそろって、はじめて公式サイトは受け皿になります。載せる情報を厚くする具体は、公式サイトの作り方としてまとめています。

二つ目は、来てくださった方に登録していただく公式LINEの名簿です。チェックインのときに登録をお願いし、連絡先を宿に残します。名簿があれば、二回目の予約を広告費をかけずにいただけます。やり方は「OTAの手数料を下げ、宿の自社予約比率を上げるLINEの活用方法」にまとめています。

この二つを整えたうえで、OTAはそのまま回し続けます。OTAで出会った方の一部が、二回目から公式サイトや公式LINEで予約してくださる。これが積み重なって、比率はゆっくり上がっていきます。

ここまでを宿の中だけで続けるのが難しい場合は、外に任せる方法もあります。任せる範囲と宿に残す仕事は、「旅館・ホテルの集客代行に任せる仕事と、宿に残す仕事」にまとめています。

一件が直販に変わると、宿にいくら残るか

1件の予約の宿泊料金が合計2万円、OTAの手数料が15%の宿があるとします。この宿がOTAで一件予約を受けると、手数料は2万円の15%で3,000円です。同じ予約が公式サイトからの直販に変われば、この3,000円はOTAに払わずに済みます。自社の予約システムの利用料や決済手数料は直販でもかかるので、宿に残るのはそれを差し引いた額です。

月に30件の予約がOTAから直販に変わったとすると、3,000円かける30件で、OTAに払う手数料が月に9万円減ります。年にすると、108万円です。1件の予約の宿泊料金がもっと高い宿や、クーポンと広告枠を積んで手数料が実質30%になっている宿なら、減る手数料はさらに大きくなります。

残った手数料は、料理やサービス、働く人の待遇、公式サイトと公式LINEの手入れに回せます。自社予約が増えるほど、宿が自分の判断で使えるお金が増えていきます。

手数料が一件あたりいくら消えているかを、自分の宿の客単価と料率で正確に出す方法は、「OTAの手数料は1予約あたりいくら消えているか|粗利から逆算する計算」に書いています。まず自分の宿の一件あたりの金額を知ると、比率を育てる意味が具体的になります。

一件が直販に変わると宿に残るお金の計算例。客単価2万円×OTA手数料15%で1件3,000円、直販に変わるとその3,000円が宿に残り、月30件なら9万円、年で108万円になることを示す図。金額は分かりやすくするための例

よくある二つの誤り。急にOTAをやめる、値下げで比率を作る

自社予約比率を上げようとして、かえって宿を苦しくする打ち手が二つあります。

1
受け皿ができる前に、急にOTAをやめる。比率を上げたい一心で、OTAの掲載を一気に減らす宿があります。ですが、公式サイトと公式LINEが育つ前にOTAを閉じると、新規のお客様と出会う入口が大きく減り、予約の総数が先に落ちます。OTAは閉じずに残し、直販が育ったあとも新規のお客様と出会う入口として使い続けます。
2
公式サイトで予約する理由を、値下げで作る。公式サイトのほうを安くして直販に誘導しようとすると、値段で比べられる関係から抜け出せません。安いときしか予約されなくなります。値引きが必要なら、元の料金は下げずに、期間を区切ったクーポンで出します。クーポンは元の料金を見せたまま一時的に引くものなので、宿の料金そのものは下がらず、いつも安い宿として比べられることもありません。公式サイトで予約する理由は、到着時のウェルカムドリンクや、次回に使える宿泊券のような、値段以外のものを用意します。

この二つに共通しているのは、比率という数字だけを見て、宿の予約総数やお客様との関係を見ていないことです。比率は宿を健やかにするための道具なので、比率のために予約総数を減らしたり、値段で選ばれる関係に戻ったりすると、順番があべこべになります。

自社予約比率は一気には動かない。公式LINEの名簿は一人ずつ積み上がる

自社予約比率は、手を打ったその月にぐんと上がる数字ではありません。

公式サイトを作り直しても、宿の名前で検索して来る方が増えるまでには時間がかかります。公式LINEの名簿も、来てくださった方を一人ずつ積み上げていくものなので、一気に一万人にはなりません。松川館の公式LINEも、何年もかけて今の人数になりました。

それでも、受け皿を先に作る順番は変わりません。OTAで出会った方が二回目から直接予約したくなる状態を、地道に整え続けます。

北海道の宿で直販の売上が4.7倍になったのも、公式サイトを含む七つの施策を一年かけて回し続けた結果です。まずは自分の宿の先月の予約を入口ごとに数え、公式サイトと公式LINEのどこが足りないかを一つずつ埋めていきます。

よくある質問

自社予約比率は、何パーセントを目指せばいいですか。

決まった正解の数字はありません。OTAをやめる必要もありません。OTAで新規のお客様と出会い、二回目からは公式サイトや公式LINEで迎える形にして、直販の割合を少しずつ上げていくのが現実的です。まずは先月の予約を入口ごとに分けて、いまの比率を知ることから始めます。

OTAをやめれば、自社予約比率は上がりますか。

計算の上では上がります。ですが新規のお客様と出会う入口が大きく減るので、予約の総数が減ります。私たちはOTAを残したまま、公式サイトと公式LINEという受け皿を作って、直販の割合を上げています。

公式サイトからの予約は、OTAからの予約と何が違いますか。

公式サイトからの予約には、OTAの手数料がかかりません(自社の予約システムの利用料などはかかります)。さらに、予約した方のメールアドレスや電話番号が宿の手元に残ります。連絡先が残ると、次のご案内を広告費をかけずに届けられます。公式サイトから予約する方は、宿を調べて選んでくださった方が多いです。

自社予約比率を上げるには、何から手をつければいいですか。

予約がそのまま入る公式サイトと、来てくださった方に登録していただく公式LINEの名簿づくりから始めます。OTAを削るのではなく、受け皿を先に作る順番です。具体的な手順は、関連記事にまとめています。